「TRIBUS 2025」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」開催レポート<Part 2:スタートアップ企業編>

2月2日(月)、事業共創を目指す社内外統合型のアクセラレータープログラム「TRIBUS 2025」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」が、株式会社リコー本社で開催されました。レポート<Part2>では、社外スタートアップ企業によるピッチの内容をご紹介します。応募総数255社の中から選び抜かれた8社が登壇し、アクセラ期間中の共創活動の成果を発表しました。
スタートアップ企業のプレゼンテーション
※以下、事業概要/会社名/代表者名の順
1.キーワードは「100」リコーの複合機と目指すパブリックスペース拡大
コインスペース株式会社 栗原知也 (https://coinspace.jp/)
▲代表の栗原氏は冒頭、「リコーのプリンター」を印刷したTシャツを着用して登場し笑いを誘いました。
同チームは、パブリックスペースにおける複合機の新たな活用モデルを提案しました。約100営業日にわたる活動を通じて市場調査やヒアリングを重ね、ターゲットを塾・予備校と自治体に設定したといいます。発表では、このプロジェクトを象徴するキーワードとして「100」が掲げられました。
まず、パブリックスペースで有料印刷を利用するユーザーを把握するため、100人を対象にアンケートを実施。その結果、受験勉強で過去問などを印刷する高校生にニーズが多いことが分かりました。社会人は職場で印刷できるケースが多く、個人利用は比較的少ないといいます。
この結果を受け、同チームは大手8社の塾・予備校にヒアリングを実施。自習室やチューター制度が学習環境の重要な要素である一方、自習室の運営は本業ではないため負担になっているという課題が見えてきました。そこで、スペース運営のノウハウと複合機を組み合わせた新しい自習室モデルを提案しました。複合機を学習支援の「チューター」として再定義し、過去問の印刷やスキャン、学習ログの取得などを通じて学習支援機能を拡張する構想です。
さらに、予備校業界ではフランチャイズ型の拡大が近年横ばいになりつつあり、新しい予備校モデルが求められていることも確認されました。同チームは、スペースと複合機を組み合わせた新しい学習拠点のモデルを構築し、複合機の新たな展開につなげたいとしています。
また、自治体との連携についても検討しており、大田区へのヒアリングを実施しました。教育施策や地域情報発信、防災などと組み合わせることで、複合機を単なるコピー機ではなく地域の情報発信拠点として活用する可能性を探っています。
今後は、大田区との実証実験の検討や、塾・予備校との新たな学習拠点モデルの構築を進める予定です。2030年までに100拠点への展開を目標に、複合機を起点とした新しいサービスモデルの確立を目指すとしています。
2.「ARGS」×「旅アトリーチ」で作る新しい観光向けデジタルガイド
ソーシャル・アイディー株式会社 小沢一世 (https://tabiato.co.jp/)

同チームは、リコーのソリューション「ARGS」と、自社サービス「旅アトリーチ」を組み合わせた新しい観光向けデジタルガイドを提案しました。「旅アトリーチ」はSNS上に自然発生する観光客の投稿を二次利用し、自治体や観光協会の公式サイトで活用できる仕組みを構築することで、地域の魅力を発信するサービスです。
今回は実証として、大分県竹田市のイベントで導入。準備期間は約2週間と短期間ながら実装を実現し、3日間で約3600人の来場者が利用しました。QRコードからアプリ不要で利用できる仕組みとし、マップ、公式情報、SNS口コミ、多言語音声ガイドを閲覧できるシステムとなっています。「ARGS」に「旅アトリーチ」の口コミコンテンツを組み込んだことで、ユーザー1人当たりのページビューは前年より46%向上する結果となりました。
また、山梨県のレジャー施設では、業界で広く利用されている競合サービスがすでに導入済みですが、このサービスと差別化する提案を実施。写真から直感的にガイドマップへ遷移する新しいUIを提示し、導入に向けた検討が進められています。
さらに、三重大学との産学連携プロジェクトでは、倉敷市美観地区のインバウンド向けデジタルガイドを地元の学生が制作。多言語対応機能とSNS口コミを連携させる技術検証を行いました。学生が地域の観光資源や課題を自ら調査しながらガイドを作成することで、地域課題への理解が深まる効果も見られたといいます。
今回の取り組みを通じて、ビジュアルを起点に直感的に理解できる点や、自治体・観光協会・大型施設など幅広い顧客ニーズに対応できる点が強みであることを確認できたといいます。ITリテラシーの低い方でも利用できることなどから、今後はリコージャパン株式会社と販売体制や価格設計を整理しながら、自治体や観光関連施設への展開を進めていく方針です。
3.誤嚥リスク管理サービス「GOKURI」で目指す食生活を楽しめる世界
PLIMES株式会社 下柿元智也 (https://www.plimes.com/)

プライムス株式会社の下柿元氏は、医療と介護の狭間にある食支援の課題を解決し、「食生活を楽しみながら健康的に在宅療養できる社会」の実現を目指しています。背景には、高齢化の進行に伴い増加する誤嚥性肺炎があります。日本では年間約6万人が亡くなっているとされ、早期発見と予防の重要性が高まっています。また国会でも高齢者の肺炎に伴う入院医療費や介護負担が議論されるなど、社会的関心も高まっています。
同社が開発しているのは、食事中の「飲み込み(嚥下)」の状態を可視化するソリューションです。高齢者は食事ができているように見えても、安全に飲み込めていない場合があり、それが誤嚥性肺炎のリスクを高め、食事量の低下や食形態の制限を招き、低栄養の一因となることがあります。そこで嚥下の状態を記録・共有し、「安全に食べられているのか」を客観的に把握できる仕組みを提供します。リアルタイムで嚥下を確認できるほか、定期測定によって機能の変化を定点観測し、誤嚥リスクの早期発見につなげます。
リコーとの検証では介護や看護を支えるさまざまな職種の方々にヒアリングを実施できたといいます。訪問看護や介護施設からは実際の使用シーンが想定できるなど、高い評価が得られました。特に施設では、新人や外国人スタッフの教育、介護の質の標準化にも役立つ可能性が指摘されています。一方で、家族介護や医師の現場ではニーズが顕在化していないケースもあり、導入シーンの設計が課題となりました。
今後は、誤嚥性肺炎などによる入院リスクの低減や、入所者が安心して食事を続けられる環境づくりを支援するため、まずは介護施設を起点に導入を進めていきます。将来的には訪問看護へと展開するモデルを検討しています。さらに食品企業との連携なども視野に入れ、嚥下データを活用した食事改善など、新しいケアの仕組みづくりを目指しています。
4.介護現場をAIの「目」と「脳」で支える、介護特化型自動記録システム
株式会社Sportip 高久 侑也 (https://www.sportip.jp/)

株式会社Sportipは筑波大学発のベンチャーとして、日本最高峰のスポーツサイエンスとAI技術で超高齢化社会の課題解決を目指す会社です。
今回は、PoC用AI介護自動記録システムの開発に取り組みました。介護業界では人手不足や記録業務の負担、記録の客観性の欠如といった課題が指摘されています。同社はこれらの課題に対し、AIが「目」と「脳」の役割を担う自動記録システムでアプローチしました。
システムはマルチカメラで取得した映像を入力し、ビジョン・ランゲージモデル(VLM)で解析することで、介護現場の出来事を自動で記録する仕組みです。
背景には、一般的な生成AIが介護データで学習していないため精度が低いという課題があります。また、多くの競合サービスは特定のイベントのみを検知する仕組みにとどまっており、介護現場全体の行動を記録するには限界があるといいます。そこで同社は、介護の文脈を理解できる独自のVLMを開発し、実用化の可能性を検証しました。
リコーとの検証では実際の現場に近いデータを取得、食事・飲水・服薬・身体状態の4項目についてAIによる記録が可能かを確認しました。映像取得から解析結果の出力まで約15秒で処理できることが確認でき、施設に設置可能なエッジデバイスでも動作するなど、現場での利用に向けた手応えが得られました。一方で、「飲み込み」など喉の動きの認識については学習データが不足しており、精度向上の余地があることも分かりました。
今後は追加学習や環境整備を進めながらモデルを改良し、介護に特化したAIをリコーと構築できるとしています。また、映像解析から記録作成までをワンストップで自動化するサービスとして実装し、介護プラットフォームと連携した事業化を進めていく方針です。
将来的には、物理世界のデータを蓄積することで介護分野に特化した「フィジカルAI」の構築を目指します。映像解析を通じて蓄積されたデータを活用し、将来的には健康状態の予測や介護ロボットへの応用など、介護現場を支えるAI基盤の実現を見据えています。
最後に高久氏は「一緒にこの超高齢社会の日本で、介護のフィジカルAIのソフトウェアを一緒に作っていければと思います」と締めくくりました。
5.カサナレ株式会社の作る「外さないAI」で現場から未来を創る
カサナレ株式会社 安田喬一 (https://kasanare.co.jp/)

カサナレ株式会社は、AIを実際の業務で機能させるための周辺システム基盤の構築を主な領域としています。AIのオーケストレーションやオペレーションを担い、企業が安心して活用できる環境づくりを支援しています。
同社の基幹技術は「テクノロジーピース」と呼ばれるモジュール型の仕組みです。データを複数のモジュールで再構成し、AIが扱いやすい形に組み立て直すことで、“AIフレンドリー”なデータを生成します。これにより、回答の根拠やガバナンスを重視する企業でも導入しやすい「外さないAI」の実現を目指しています。
今回のリコーとの取り組みは、当初OCRと生成AIを組み合わせた価値創出を目的としてスタートしました。しかし同社は「現場から未来を創る」という考えのもと、まずリコーの事業やアセットを深く理解することから着手。複数部署へのヒアリングを通じて、現場が抱える課題やAI活用の障壁を整理しました。
その結果、単なる技術導入ではなく「AIをどの市場ポジションで活用するか」が重要なテーマとして浮かび上がり、検証テーマは「AIから使えるAIへ」と設定されました。
具体的には、「勝てるユースケースの特定」「権限を破らないガバナンス設計」「運用を継続的に伸ばす仕組み」「データ生成の高速化」という4つの実証テーマを設定。このうち3つはすでに現場で検証が進んでいます。
例えば「勝てるユースケースの特定」では金融分野を対象に、どの業務やデータにAIが最も適しているかを分析し、優位性のある活用領域を見極めています。また「権限を破らないガバナンス設計」では、社内ポータルを活用しAI利用時の情報アクセス権限を管理する仕組みの検討が進められています。
さらに「データ生成の高速化」では、リコーの公式ホームページを読み込み、回答の根拠URLを提示する情報照会エージェントを構築。約5,000円のコストと短時間の処理で実装できることを確認しました。
同社は今後もリコーとの検証を通じて、アプリケーションだけでなくガバナンスやエンタープライズAI基盤の領域まで含めた「外さないAI」の実装を進めていきたいとし、発表を終了しました。
6.リコーと目指す日本初「プラスチッククレジット」
株式会社esa 米久保秀明 (https://esa-gl.com/)

株式会社esaは、リサイクルによる資源循環に取り組むスタートアップであり、特に複合プラスチックの再資源化に注力しています。複合プラスチックは多くが焼却処理されている現状があり、同社はこの領域の回収と再利用の高度化を目指しています。
今回、リコーと連携し、ハンディーセンサーを用いた複合プラスチックの識別・回収の実証を実施しました。実際に工場で40種類以上の素材を測定した結果、回収対象となる複合プラスチックは高精度で識別可能であり、不要な素材を除外できることが確認されました。
一部、判別が難しい中間領域はあるものの、全体として「松・竹・梅」の3段階でフィルタリングできることが分かり、現場での実用性が示されました。さらに愛知県の回収拠点において実証を行い、測定データをもとにその場で分別や価格交渉に活用できることも確認されています。これにより、従来と比較して約40日間の業務短縮効果が得られました。
この成果により、同社の既存ビジネスである複合プラスチックの回収・製造・販売プロセスにおいて、回収工程の効率化に大きく寄与することが明らかになりました。
さらに同社は、新たなビジネスモデルとして「プラスチッククレジット」にも取り組んでいます。これはカーボンクレジットと同様に、プラスチック使用や廃棄による環境負荷をオフセットする仕組みであり、すでに海外企業や各国制度でも導入が進んでいます。
esaは自社のリサイクル活動を通じて、日本初となるプラスチッククレジットの発行を予定しており、その信頼性を担保するためにトレーサビリティの強化を進めています。ここでもハンディーセンサーを活用し、廃材から原料、製品までの素材一致性を高精度で検証できることが確認されました。
今後は、このセンサー技術を活用したトレーサビリティ管理の高度化と、クレジット品質の向上を目指します。リコーとは引き続き協業に向けた検討を進めており、プラットフォーム構築と組み合わせた事業展開が期待されています。
今回のリコーとの活動は様々な企業に注目されており、さらなる協業を目指したいとして発表を終えました。
7.「Star Quest for Ricoh(仮称)」で中小企業のセキュリティ担当者を救う
SecureNavi株式会社 井崎友博 (https://secure-navi-inc.jp/)

SecureNavi株式会社は、中小企業のセキュリティ課題の解決を目指すスタートアップです。背景には、経済産業省が導入を進める「SCS評価制度」があり、サプライチェーン全体のセキュリティレベルを星の数で可視化する仕組みが始まろうとしています。
この制度では、取引先にも一定のセキュリティ水準が求められるため、中小企業にとっては「星を取得しなければ取引できなくなるのではないか」という不安が広がっています。しかし実際には、専門知識の不足や対応負荷の大きさから、対応が難しいのが現状です。
こうした課題に対し、同社はリコーと連携し、SCS評価制度に対応したクラウドサービス「Star Quest for Ricoh(仮称)」の開発を進めています。現在はプロダクトのモックアップが完成しており、リコージャパンとの連携も進行中です。
従来、中小企業が制度に対応するにはコンサルティング会社に依頼し、約9か月かけて大量の要件整理や書類作成を行う必要がありました。100項目以上に及ぶセキュリティ要件を手作業で整理する負担は大きく、現場にとって大きな障壁となっていました。
Star Questは、こうしたプロセスをクラウド上で一元化し、セキュリティ対策の進捗を可視化。未対応項目を「クエスト」として提示し、動画や解説を通じて段階的に取り組める設計となっています。
さらに、リコージャパンのセキュリティソリューションと連携し、対策実施と同時に具体的なサービス導入へとつなげる導線も構築されています。これにより、ユーザーにとっては効率的な対策実施が可能となり、リコー側にとってもクロスセルの機会創出につながります。
また、作成された情報はデータベース化されるため、審査プロセスもオンラインでスムーズに実施可能となり、従来の煩雑な書類対応を大幅に簡素化できます。
今後はリコーとの協業を通じて、本サービスを中小企業へ広く展開し、10万社規模の導入を目指します。制度対応そのものを目的化するのではなく、実質的なセキュリティ強化につなげることが狙いです。
同社は、セキュリティ対応が「書類作成業務」になる現状を変え、中小企業が実効性のある対策に取り組める環境を整備することで、日本全体のセキュリティレベル向上を目指すとしました。
8.EV導入・運用・データ活用を一体化した中小企業の脱炭素経営支援
eMotionFleet株式会社 白木秀司 (https://www.emotion-fleet.com/)

eMotionFleet株式会社は、リコーとの共創により、中小事業者のカーボンニュートラル実現に向けたモビリティ支援の実証成果を報告しました。
背景には、中小企業に対する脱炭素対応の伴走支援ニーズがあり、同社はEV導入から運用までを支援するサービスの構築を目指しています。
今回の実証は大きく3つの取り組みで構成されています。1つ目は、リコージャパン所沢営業所における社用車10台へのクラウド型車載器の導入です。EV1台、ガソリン車9台で検証を行い、安全運転、燃費、稼働状況のデータを取得しました。
特徴は、従来のGPSデータに加え、燃料消費やEVのバッテリー状態まで取得できる点にあります。これにより、より実態に即した運用改善が可能となりました。
3か月間の運用を通じて、安全運転スコアは向上し、ヒヤリハットの減少とともに事故リスク低減の効果が確認されました。また、安全運転の徹底が燃費改善にも寄与する相関関係がデータとして示されています。
さらに稼働分析では、車両の同時稼働が最大でも約80%にとどまることが判明し、保有台数の最適化余地が明らかになりました。営業車の共有化や予約管理の導入による効率化の可能性も示されています。
加えて、1日あたりの走行距離は約50kmと、EV運用に十分対応可能な水準であることが確認され、EV化による燃料費およびCO2排出量削減の見通しも得られました。
2つ目は、リコージャパン顧客への共同外販です。7社への提案を行い、うち1社とは実証導入に向けた協議が進んでおり、サービスの市場性が確認されつつあります。
3つ目はサプライチェーン領域への展開です。輸送協力会社に対し車載器導入を提案し、従来のトンキロ法に代わる、実データに基づくCO2排出量(スコープ3)の可視化に向けた取り組みが進められています。
これらの成果を踏まえ、今後はリコー社内での導入拡大を起点に、サービスの商材化と外販を進めていく方針です。将来的には、EV導入・運用・データ活用を一体化した支援モデルとして、中小企業の脱炭素経営を後押ししていくことを目指すとしました。
審査員コメント
審査員のリコージャパン株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 笠井 徹氏は、今回成果発表したスタートアップ企業に向けて次のようにメッセージを送りました。

「TRIBUSを通じて、多くの方々との出会いが広がってきていると感じています。リコージャパンとしても、単独での少額出資による協業を始めたり、あるいは「FORリコー」という形で、リコーならではのモデルを皆さんと一緒につくり、ビジネス展開を進めている事例も増えてきています。TRIBUSに参加していただくことで、外部審査員の方々の広い視野と判断を踏まえたうえで、一緒に仕事ができるようになります。
その意味では、我々にとっても、より確実性の高い取り組みになっていると感じています。TRIBUS以外でも、ぜひさまざまな形でお声がけいただければと思いますし、皆さまのお仲間も含めて、今後も多くの方にTRIBUSへチャレンジしていただければ幸いです。いずれにしても、これから実際にサービスとして形になり、お客さまに届くかどうかが本番です。そこまで、ぜひ最後まで、我々も伴走させていただきたいと思います。本日は本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。」