Reverse Pitch2021#3|認知症未病のプラットフォームを。幅広い領域のSU求む。

メディカルイメージングといえば、MRIやスキャナーを思い浮かべる人は多いだろう。ましてやリコーが医療機器事業に参入していたことは、業界人でもなければ知る人は少ないはずで、しかもそれは「生体磁気計測」という最先端でニッチな技術領域なのだ。メディカルイメージング事業センターが今回リバースピッチに登壇したのは、この生体磁気計測、特に脳に特化した「脳磁計」を使って、認知症を早期発見・予防したいという壮大な目標のためだ。しかし、求めているのは最先端の医療、ITから、専門外のアナログな領域まで、非常に幅広い。どんなスタートアップを求めているのか、脳磁計のアウトラインとともに聞いた。
メディカルイメージング事業センター 照 太郎

  ――メディカルイメージング事業センターについて、現在どのような事業に取り組んでいらっしゃるのかお教えください。 メディカルイメージング事業センターは、リコー全体から見ると「飛び地」の事業ですが、生体磁気計測技術を用いて、脳を含む中枢神経、手足の末梢神経など神経に特化してその機能を定量的に計測する技術にこだわって事業を進めています。自社研究所で、脊髄や末梢神経などの働きを可視化する「脊磁計」を開発してきたところに、2016年、横河電機の脳を対象とした生体磁気技術の「脳磁計(MEG)」を事業承継し、全身の神経をフルラインで見ることができるようになったため、大型医療機器事業に本格的に参入しました。 脳磁計は、2017年にアメリカのFDA承認、2018年に日本国内の製造販売認証を受け、販売を開始しました。主にてんかんの術前診断の補助に用いられ、保険診療の対象にもなっています。コロナ禍のために病院で投資控えが起き、導入が止まっていましたが、最近になってようやくアメリカから需要が回復し、販売・導入が再開されるようになりました。 ――リバースピッチで提案した認知症予防の事業、プラットフォームについて、背景の社会課題も含めてお教えください。 脳活動から発生する磁場を計測し、脳の機能を定量的に見ることができます。例えば、α波と呼ばれる十ヘルツ前後の脳波が、認知症になるとゆっくりになる傾向が見られます。標準的な脳波のリズムと照らし合わせ、その偏差を認知症のリスクファクターとして活用することを考えています。日本では北海道の医療法人と提携し、脳磁気のデータベースを構築し、分析に利用しています。 脳の研究は宇宙、深海と並び、ポテンシャルの高い領域で、ブレインプロジェクトなどの大規模な研究活動とも提携していますが、この技術を使って、もっと社会に貢献することはできないか、と考えたのが今回のリバースピッチの提案です。 2025年までに、認知症患者は65歳以上人口の5人に1人、軽度認知症を含めると3人に1人になると言われており、まさに待ったなしの状況です。認知症予防は、本人はもとより、企業、自治体、家族にとっても意義のあるもの。認知症治療薬がアメリカで承認されましたし、早期発見できれば、適切な介入により、認知症を抑制することが分かってきており、健康寿命の延伸にも繋がります。 とはいえ、リコーが持っているのは、脳磁計というパーツひとつだけです。これだけでは認知症の予防はできませんし、受け入れる自治体や企業側も、世にあるさまざまなソリューションをピースバイピースで判断するのは難しいと思います。そこで、認知症に関する技術、ノウハウを持ったスタートアップの皆さんと認知症未病のプラットフォームを構築し、提供していくことを考えました。プラットフォーム上のさまざまなサービスの中から、企業・自治体で使いたいものを選べるようになるのが理想です。このプラットフォームは、リコーが主導する必要はありませんし、コントロールしたいわけでもありません。さまざまな事業者がフラットに参画できるものを目指したいです。 ――脳磁計について、運用の現状や課題などがありましたらお教えください。 認知症に関する磁気計測は、今のところ保険対象外です。また、これのみによって認知症を鑑別・診断するものではなく、ドクターの診断を補助するためのものという立ち位置になります。脳磁計があればMRIもPET(Positron Emission Tomography。陽電子放射断層撮影)も要りませんというわけではなく、個人個人の脳やステージに合わせていろいろな見方をしましょうというものです。 てんかんの術前診断の補助としては、解析用ソフトもパッケージ販売しましたが、脳波の分析にはデータベースとの照合や特殊な技術が必要となりますので、オンラインでクラウドにデータをアップロードしていただき、脳機能データベースと脳機能指標を使った分析結果をレポートとしてお返しするというやり方にしています。 検査に掛かる時間は、準備に5分、計測に5分。アップロードから10~20分ほどでレポートをお返しすることができます。 ――「認知症の未病」のプラットフォーム構築のために、どのようなスタートアップの方々と挑戦していきたいとお考えでしょうか。 前述の通り、認知症未病のプラットフォームに乗ってくれるサービス、技術をお持ちの方。認知症に関する技術やノウハウ、特に早期発見やケアに関するソリューションをお持ちの方が望ましいことは確かです。アプリなども含めた日常的なチェック&ケア、定期的な脳ドック、異常があれば専門医診察、適切な介入を受けるという認知症の未病サイクルを回すためのピースとなる方であれば、どなたとでも協業を検討したいです。できるだけたくさんのピースが揃ってくれればと思っています。 しかしそれは、IT、医療の先端技術でなくても良いと考えています。例えば、全国で展開されている「いきいき百歳体操」の運動のように、高齢者を動員する何らかのサービスをお持ちの方であるとか、高齢者の免許証更新の際には認知症の検査が行われますから、免許証更新に関する何らかのサービスを考えている方でもご一緒できる部分があるでしょう。門戸は広く考えています。 また、事業の性格上、すでにさまざまな企業、アカデミアと協業、共同研究を進めていますが、スタートアップの皆さんに期待したいのは、そういうところからは生まれ得ない、尖ったアイデアやソリューションです。何社かスタートアップの方とお話する機会があり、そのアイデアの鋭さに本当に驚かされたことがありました。とはいえ、意外とスタートアップの方とお会いする機会、接点が少ないのが悩みでもあったので、TRIBUSでできるだけ多くのスタートアップの皆さんに出会いたいと期待しています。 ――ご一緒するスタートアップの皆さんに提供できる支援はありますか? リコーグループは、販売チャンネルを通じて全国約1700すべての自治体とお付き合いがあります。また、主にテーマは地方創生となりますが、全国で30以上の自治体と包括連携協定を結んでいます。その多くでヘルスケアも条項に入っていますし、新たに認知症をテーマに盛り込んでいくこともでき、それら自治体へアプローチしていくことが可能です。未病に力を入れている神奈川県とは、2020年に認知症に関する連携協定を結びました。企業一社では難しい、地方自治体への営業や、実証実験、社会実装にいち早くつなげていくことができます。完成度の高い技術、サービスであれば、すぐにでも展開することができるでしょう。 その場合、実際スタートアップの皆さんのご負担を減らすために、支給が遅くなる補助金ではなく、ソーシャル・インパクト・ボンドや、内閣府の成果連動型民間委託契約方式(PFS)を使っていくことも考えたいと思っています。 ――TRIBUSでご一緒するスタートアップの皆さんとの協業も含めて、今後の展開についてお教えください。 マイルストーンとしては、2022年度中には、どこかの自治体でプラットフォームが稼働している状況を作りたいと考えています。自治体で認知症を担当する方は、今はだいたい新型コロナウイルス感染症に手を取られていて、なかなか具体的な話を進めることができませんが、ワクチン接種が進んで落ち着くであろう今秋以降、動きを加速させていきたいです。認知症を総合的に認識するには多面的なアプローチが必要です。多様な技術、診断技術、さらにはケアサービスも組み込んだ、統合的なプラットフォームを共創したいと考えていますので、皆さんの応募をお待ちしております。 リバースピッチの動画はこちら▼



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