【TRIBUS Project】人の心を揺さぶるものを作りたいなら。TRIBUSが今「感性」を大事にする理由

コロナ禍で、直接会って話すなどの交流が難しくなっている昨今。リモートワークで仕事を進める上では、いかに働くメンバー間の連帯感を高めるかが重要だ。アクセラレータープログラムを行うTRIBUSでも、新しい事業創造を行う上では、アイデアの創出やそのベースとなるチームワークの醸成が必要不可欠。そこで今回、より良い事業開発環境のために採用・開発したのが「香り」だ。香りの開発支援を行った一般社団法人KANSEI Project Committeeの柳川舞氏と、香りづくりのワークショップに参加したリコーの鈴木裕児に、香りの開発経緯や制作プロセスについて話を聞いた。


一般社団法人KANSEI Project Committee柳川舞氏
株式会社リコー プロフェッショナルサービス部 ワークフロー革新センター鈴木裕児


TRIBUSがなぜ、香りづくり?

TRIBUSの香りを開発した一般社団法人Kansei Project Committee(以下、KPC)は、五感・感性を研究することを目的に組織された団体で、メンバーには複数の企業が参画。感性工学の手法を利用して五感を定量的に扱い、商品開発や新サービス開発などに活かすサービスを提供している。主に空間設計や建築などの分野で案件を扱ってきているが、最近ではまちづくりや地域活性化などでもニーズが高まっているという。

「人の体験は、見るものによって香りが変わって感じられたり、逆に同じ場所にいても香りによって異なるインスピレーションを得たりと、五感全てが統合して形成されるものです。私たちはそういった、五感の複合的な創造価値を科学的に検証・定量化して、人間の体験をトータルで可視化するような取り組みをしています」と話すのは、KPCで代表理事を務め、今回TRIBUSの香りデザインをサポートした柳川氏。



柳川氏自身は嗅覚のスペシャリストで、香りを香った際の脳波や心拍などを測定し、香りが人間の感情にもたらす影響の分析なども手がける。これまでにもさまざまな企業の“香り”の開発に携わっている柳川氏がリコー・TRIBUSの香りを作ることになったのは、イノベーティブな事業を生み出す環境づくりに、「感性」からアプローチしたいと考えたTRIBUS事務局メンバーからのオファーがあったためだ。

「リコーはかねてより働きやすい環境づくりに力を入れられていて、会議室やロビーにも、音や映像を使ったアプローチをされています。今回は、在宅でリモートワークの時間が増えた中でも、感性に働きかけながらチームの連帯感を醸成したいとのご要望を受けて、TRIBUSの香りを作ることになりました」(柳川氏)

TRIBUSのイメージは「楽しい」「ワクワク」「新しい」

今、香りに注目している企業は多い。香りは、脳の中でも辺縁系というもっともプリミティブな領域に属する感覚で、感情や本能に密接に結びついている。そのため、ブランドロイヤリティを高めるために、商品やサービスと香りを結びつけたユーザー体験を提供する企業が増えてきているという。

「どんな商品やサービスにも、複雑で多面な魅力があります。でもそれを言葉だけで見せようとすると、どうしても画一的な説明に落ち着いてしまう。香りはトップノート・ミドルノート・ラストノートという複数の構成から作られるので、1つだけでない、多面的なイメージを体現できるんです。また言語から入ってしまうと情報が多すぎてブロックされてしまいがちですが、香りは出会った瞬間に体験・記憶してもらえるという良さもあります」(柳川氏)

香りを作る手法はさまざまあるが、TRIBUSでは、まず最初に、事務局メンバーからのヒアリングやTRIBUSコミュニティメンバーとのワークショップを実施。TRIBUSに対するイメージをコラージュとして表現するワークを行なった。このワークショップに参加したのが、リコーの鈴木裕児だ。



「僕はこれまでデザインを専門にやってきたのですが、デザインの『良さ』を言葉で説明するのは難しいなと思っていました。言葉にしてしまうとそのデザインの大切な要素が削ぎ落とされてしまう感覚があって、イメージの言語化には限界があると感じていました。今回の香りを作るプロセスではTRIBUSのイメージをいきなり言語化するのではなく、まずは僕たちで雑誌の写真などでイメージコラージュを作成して、それを使って自分たちが思うTRIBUSとは何なのかを説明しました。実はその段階で最初は認識していなかったTRIBUSに感じている潜在的な思いが、言語化されていきました。自分たちが感覚的に作ったイメージコラージュをあらためて言語化することで、本質的な言葉が浮かび上がってきたのだと思います」(鈴木)

ワークショップで作成されたコラージュ。TRIBUSに対する各々のイメージが反映されている。

並行して柳川氏が行なったのが、言語の分析。ワークショップの内容はもちろん、企業サイトや社長メッセージ、ピッチコンテストの内容などからもテキストマイニングの手法で言葉を抽出する。そして感性工学の主成分分析という手法を使って言葉をマッピングし、香りの方向性や評価工程の要素を絞り込んでいく。

「TRIBUSのイメージで、一番多かった言葉が『楽しい』でした。それから『ワクワクする』『新しい』。それと同様に皆さんに共通していたのが、リコーという母体の企業に対する『安心感』『安定感』だったんです。強く根を張った、ゆるぎのない母体のうえで、自由にイノベーティブなものにチャレンジするという構造が浮かび上がってきました」(柳川氏)

香りの方向性や評価軸として使われた主成分分析による感性マップ

香りから紐解かれる、TRIBUSの新規事業創造への姿勢

ここで、柳川さんの言葉を借りながら香りのレシピを解説していこう。

トップノートはレモン、ライム、ユーカリレモン、エレミ(スパイシーな樹脂)。TRIBUSの若さや新しさ、また多様なアイデア、自由な発想が生まれる様子を、果実の瑞々しさや新鮮なイメージに重ねて表現している。ミドルノートのパイン、プチグレンもこのイメージに含まれる。

ミドルノートの中心は、山椒、生姜、クラリセージなどのスパイシーな香り。スパイスのピリッとした感覚は、新規事業創出において避けては通れない、ゴールのない山道を登るような厳しさを表す。しかしスパイシーさと共存する温かさは、TRIBUSの事務局スタッフの温かく、背中を優しく押すようなイメージが重ねられている。

そしてラストノートには、ヒバ、杉の樹木がどんと構えている。ミドルノートの一部にはヒノキも加えられており、香りの骨組みを構成している3種の木の香りは、リコーの「三愛精神」やトライバスの「TRI(=ラテン語で3)」に由来し、昔から数字の3は「結束した強さ」や「安定」をあらわす。木はリコーという強く根をはる土台を表し、その上に、TRIBUSが伸び伸びと成長していく姿がイメージされている。

自由で若々しいTRIBUS。それを優しく支える事務局と、どっしりとした安心感のあるリコー。これが「TRIBUSの香り」なのだ。

写真は携帯可能な香りのミストとアロマオイル。ディフューザーも制作された。

柳川氏に、今回のプロジェクトを通して見えたリコーやTRIBUSに対する印象について聞いた。

「私はこれまでにも、企業の新規事業をサポートしてきた経験がありますが、いつも感じるのが、アイデアを形にすることの難しさ。新しいことに挑戦しようとすると、必ず『前例はないのか』といったようなことを聞いてくる方々が一定数います。それで多くの人が、挑戦をすることに対して臆病になってしまう。でも今回リコーとご一緒して感じたのは、経営層の方々の理解はもちろん、ワークショップをする中でも、現場の人の理解や信頼関係があるということ。大企業でも、失敗を責めず、安心して挑戦できる環境があるのは非常に珍しいなと思いました」(柳川氏)

実際に完成した香りを香るのはこの日が初めてという鈴木にも、感想を聞いた。

「僕のTRIBUSに対するイメージが、この香りを通じて突出させられているような感覚があります。今までTRIBUSに感じていた挑戦とか新しさといったイメージが増幅されましたし、普段あらためて意識することのない安心感やTRIBUSもリコーに支えられているという気持ちが、くっきりと浮かび上がってきました。もちろんこれはあくまでも僕の個人的な印象なので、他の人達がこの香りで何を思うのか、どう感じるのかに興味があります。それをお互いに共有できると、また新しい発見もあって面白いと思います」(鈴木)

3月に行われたInvestors Day(成果発表会)では、ピッチをする挑戦者や社内外の審査員、また一部の事業所にデフューザーを配り、香りを共有しながら発表・進行。その結果、沖縄でTRIBUSのカタリストの活動をしている参加者からは、「香りがきっかけでTRIBUSに関して興味を持ってもらえる機会が増えた」という声もあったそう。

「香りを共有することがそのまま話題になるという点で、香りはコミュニケーションツールです。人によって感じ方が異なるものでもあるので、いろんな人の意見を聞くことで、TRIBUSの新たな一面をどんどん発見することにもつながると思います。香りを通して、どんどんTRIBUSの取り組みが語られるようになったらいいなと思います」(柳川氏)

事業開発や技術開発はロジカルなものだが、根本にある「感性」を忘れてしまえば、人の心を揺さぶるものは作れない。TRIBUSはこれからも、日々忙しくしているとついおざなりになりがちな「感性」に目を向け、挑戦者の働き心地をさらに高めながら、本気の挑戦をサポートしていく。

TEXT BY Toshiyuki TSUCHIYA
PHOTO BY Yuka IKENOYA



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