「RxRチーム」と「Synamon」、社内外のチームが語る、 これからのビジネスにおけるバーチャル空間活用とは?

リコーのアクセラレータープログラム「TRIBUS(トライバス」で、2019年度に採択された社内チームの「 RxR (アールエックスアール)チーム」と2020年度に採択された社外チームの「Synamon(シナモン)」。両社とも、ビジネス領域におけるVR(バーチャルリアリティ)コミュニケーションの普及に取り組み、リモート化やデジタル化を牽引している企業・チームです。

TRIBUSでは、社内外を問わず採択チーム同士の交流もサポートしており、2021年3月4日には、ウェビナーにて、RxRチームの前鼻毅氏とSynamonの伊藤翔氏の対談が実現。本記事では、それぞれのチームにおける取り組みや、VRがビジネスにおけるコミュニケーションをどう変えるかなどの対談内容についてレポートします。


(プロフィール)
前鼻毅 株式会社リコー AR-PT
北海道で15年SE/プログラマーをしていた、XR(Xリアリティ)エバンジェリスト。
基幹システムから、Web、RICOH THETA iOSアプリ開発リーダーを経て、Unreal Engineを活用したVR開発へ。
2019年にリコーアクセラレーター(現TRIBUS)に採択。
建設業向けに VRコラボレーションサービス「RICOH Virtual Workplace(リコーバーチャルワークプレイス)」事業化を進めている。

伊藤翔 株式会社Synamon
新卒でエンタメ系企業に入社し、動画配信サービスのIPコンテンツの獲得やIPタイアップ企画を担当。
その後、日本オラクルでSaaSのインサイドセールスからフィールドセールスを経験。
「死ぬまでに仮想現実の世界へ行きたい」と思い、2019年よりSynamonにジョインし事業開発担当としてビジネス側全般を担当。


RxR チーム前鼻氏
ヘッドマウントディスプレイに広がる別世界に感動し、VRの世界へ

TRIBUS事務局・井内:本日はリコーの前鼻さんとSynamonの伊藤さんにお越しいただきました。今日はお二人が手がけるVRを活用したビジネスについてお話を聞いていこうと思います。それではまず前鼻さんから、ご自身と会社の紹介をお願いいたします。



前鼻氏:私たちRxR チームは、「VRでリアルよりも便利に働ける世界を作る」をビジョンに掲げて活動しています。私自身がVRに携わるようになったきっかけは、2012年にRICOH THETAのiOS開発リーダーをしていた時、ヘッドマウントディスプレイでRICOH THETAの360度画像を見て、その可能性に感銘を受け、そこからVRに人生をかけて活動してきました。

はじめは個人的に勉強したり、地域のコミュニティに参加したりしていましたが、少しずつ社内外のイベントで使ったり、外部のお客様の仕事でVRの開発を手がけたりするようになりました。そこからTRIBUS(当時はリコーアクセラレーター)に応募して、現在VRチームとして活動するに至っています。

井内: RxRチームが手がけている「RICOH Virtual Workplace」についてもお聞かせいただけますか?



前鼻氏:「RICOH Virtual Workplace」は、もともと円滑なチームコミュニケーションを志向したもので、VRを使って一つの空間を共有し、離れていてもオフィスに一緒にいるかのような体験ができるツールです。VR酔いが起こらず、疲れづらく、自然な動作で操作ができます。Unreal Engineを採用しており、ビジュアル面とデータ連携に強いのが特徴です。VR空間の中からPC画面の操作ができ、画面や資料の共有、ホワイトボードや付箋の活用も出来ます。また、空間自体の保存や復元ができるので、前回の続きから議論を始めたりすることも可能です。



現在は建設業向けのソリューションに力をいれていて、ビル等の建築に活用いただけるようになっています。例えば意匠の部分では部屋のマテリアルひとつとっても、VR空間の中に入れば、天井の色や素材を変更したときの雰囲気の違いがリアルタイムでわかります。図面だけでは理解しにくい施主やエンドユーザーの方々にも実際の仕上がり空間を体感いただけるという点では、プレゼンやトレーニング、プロモーションでの活用も想定されます。

他にも、全天球画像や点群データと連携して遠隔地にあるものを見にいくことができるので、土木での現地確認や、施工の進捗管理への活用や、CAD(Computer Aided Design)/BIM(Building Information Modeling)データを活用した設計検討などに活用いただけます。建設、土木、設備、展示など、一緒にやっていく会社さんが増えてくる中で、いろんなシーンで使えることが分かってきました。将来的にはVRコミュニケーションプラットフォームになることを目指しています。

Synamon伊藤氏
オフィスはもちろん、セミナーや展示会、研修でも活用され始めたバーチャル空間

井内:前鼻さん、ありがとうございます。それでは伊藤さんからも、ご自身と会社の紹介をお願いいたします。



伊藤氏:私はSynamonで事業開発のマネージャーをしています。簡単に経歴を紹介すると、新卒でエンタメ系企業に入社して、その後IT企業でSaaSのインサイドセールスからフィールドセールスを経験しました。もともとゲームやアニメが大好きで、仮想現実の世界に関心があったこともあり、2019年にSynamonにジョインしました。

会社の概要をご紹介させていただくと、Synamonは2016年8月に創業し、現在5期目の会社です。主な事業内容としては、VR/AR/MR技術のプロダクト企画開発を手がけており、XRがスマホのように生活に溶け込み、当たり前となる世界をつくっていきたいと思っています。

井内:Synamonさんが手がけている次世代事業の創出拠点「NEUTRANS(ニュートランス)」をご紹介いただけますか?



伊藤氏:NEUTRANSは、ヘッドマウントディスプレイをかぶったり、PCからアクセスするだけで、会議室のようなバーチャル空間に入り、まるで直接会っているかのようにコミュニケーションやコラボレーションができるツールです。バーチャルでの会議はもちろん、昨今はセミナーやプロモーション、展示会、研修・トレーニングの領域でご利用いただくことも増えてきています。



実際に2019年の秋には、国内メディアの総合展示会に技術協力し、バーチャル空間で行われる一連のセミナー、イベント、ディスカッションを他の外部サイトに配信させていただきました。またオフィス関連でいくと、リコーともRICOH Future Houseという次世代ビジネス開発拠点をバーチャル空間上に再現するなどの取り組みを一緒にさせていただいております。幅広い業界で、コミュニケーションやコラボレーションの課題を解決するために使っていただいているケースが多いです。

NEUTRANSというプロダクトを軸に、コンサルティングや技術提供をさせていただきながら、いろんな事業パートナーと一緒に新しいものを作っていくところに力をいれていますので、今後ともぜひ宜しくお願いいたします。

―パネルディスカッション―
エンタープライズにおけるVRコミュニケーションの今

井内:パネルディスカッションでは、私が考えてきた基本的な質問と、さらに視聴者のみなさんからのご質問(オンラインアンケートシステムで集計)をおふたりに投げかけていきたいと思います。

早速ですが、「実際に活動されて感じていること」からお聞かせください。



伊藤氏:今は VRがまだまだどの領域で活用できて、PMF(プロダクトマーケットフィット)していくのかが見つかっていない手探りの状態ですから、率直に難しいなと感じています。とはいえ、コロナ禍で今までのコミュニケーションの仕方が見直されているので、良い流れがきていると思います。

前鼻氏:トレーニングやファーストラインワーカー向けに有効という数字はすでに出ていますが、私たちは、ニーズやイシュースタートいうよりは、テクノロジースタートのチームです。VRの可能性を感じて動き出しているので、どう使うかの答えは現場で実際に磨いて出てくるものだと考えています。 現在注力している建設業界はBIMで3Dのモデルを作るのが一般化しつつありますが、そのデータをVRで活用し、DXを進めていく選択肢のひとつとして選んでいただけるよう、実際に現場で使える、投資対効果の良いサービスをご提供できるよう努めています。

▶︎VRが普及する日は来るのか?

井内:両社・チームの導入先は大企業が多いですが、中小企業にもVRが普及すると思いますか?

前鼻氏:答えはイエスだと思います。ただ、アメリカで流行ってから日本で流行する、建設製造大手から、など、普及するまでに業界や規模、場所によって差があると思っています。将来的には、メガネやコンタクトレンズをディスプレイとして仕事を行うなど、平面のディスプレイでなく、立体をあたりまえに扱って仕事をする時代が間違いなく来ると思います。



伊藤氏: VRはまだ汎用化されきっておらず、少々費用がかかるという点では、大手企業が先になるケースが多いかもしれません。しかし前鼻さんと同様、必ず普及する未来はくると思っているし、その世界を作ろうと思っているのがSynamonの姿勢です。今後はより多くの企業に使ってもらえるように、数値的な効果なども示していきたいですね。

前鼻氏:実際に、VRで研修・トレーニング時間が短縮したなどのお話はありますよね。

伊藤氏:国際的な監査会社さんも研修効果などを出されるなど、徐々に情報はでてきていますね。どこで活用すると効果があるかの検討がつけられるようになってきていると思います。

▶︎テレビ会議やリアルと比べて、バーチャル空間は何が優れている?

井内:議論が盛り上がってきましたね。また新たに質問させてください。コミュニケーションの向上という視点でいうと、バーチャル空間上のアバターでなく、実際の人間の表情を見ながら会話した方が良いのではというご意見がきています。

伊藤氏:難しいご質問ですね(笑)。私たちのアバターは、あえてアニメにもリアルにもよせすぎない塩梅で制作しています。アニメに寄せすぎるとビジネスにはポップすぎるし、リアルだと本物同様の表情を再現するにはかなりの費用がかかる。本物を忠実に再現することに、どれだけの投資対効果があるかということですね。



前鼻氏:一時期、ユーザーが自由なアバターを使える仕様を検討したのですが、そうすると見た目に過剰に影響されたり、人によって格差が生まれてしまうと考え、見送ったことがあります。アバターは、参加者に平等性をもたらす点も良いところのひとつであると思います。

顔の表情の話は、実現手段はいくつかありますが、例えば常にカメラを前にかざして表情を撮影しながら会議するなど制約が増える面があります。もちろん、ビジネスにおける優先順位を考えた上で、顔の表情をどうしても正確に再現する必要があるということであれば、積極的に開発していきたいと思っています。

井内:今の話に関連しますが、テレビ会議と比べて、VRのバーチャル空間でのコミュニケーションが、優れている点はどのあたりになるのでしょうか。

伊藤氏:バーチャル空間は3次元的に表現されているので、人との距離が再現できるのが強みです。テレビ会議では分からない体の動きなども把握できます。

前鼻氏:分かりやすい点は、会っている感じでしょうか。テレビ会議は画面のむこうで絵が動いている感じであるのに対して、実際に人と会って話している感覚がありますね。表情も含めて解像度がどんどんあがってきているので、VR空間で、人と「会う」のは当たり前になると思っています。

井内:「会う」という感覚は本当にそうですね。Synamonさんと協働しているRICOH Future House(リコーフューチャーハウス)の運用でも、対しているのはアバターだけど、実際にその人と会った、現地に行ったという感覚をとても感じることができます。テレビ会議だと「話した」という感覚だけど、VRだと「会った」という感覚ですね。

▶︎VR業界は過渡期、今取り組むからこそ最前線を走れる

井内:今後期待できるユースケースを教えてください。



伊藤氏:模索中にはなるのですが、現在パートナーさんとの取り組みが多いのは、やはりオフィスの領域です。より快適なバーチャルオフィスの実現を目指しています。

前鼻氏:現在取り組んでいる建設業界でいうと、モデリングの簡易化や自動化の部分などを強化していきたいと思っています。また、広い意味での期待としては、VRとAIの合体はテクノロジーとして面白いなと思っています。人間ではないものとの身体性を含めた高度なコミュニケーションが実現するのは、バーチャル空間の方が先かもしれませんね。

井内:早いもので、もう終わりの時間が近づいてきてしまいました。最後に、お二人から伝えたいメッセージがあればお願いしたいと思います。

前鼻氏:私は社会人として働き始めてから、便利なサービスはすごい人たちが勝手に作って降ってくるものでなくて、普通の人たちの、泥臭い日々の活動から作られているということを知りました。だったら、自分も泥臭くていいから、ワクワクするものや面白いと思うものをやらなきゃ始まらないと思うようになったんです。ワクワクするものをつくって、そこから、はたらくを便利にする世界を作っていきたいと思っています。

伊藤氏: VR業界に興味のある方、特にアニメやゲームが好きだったり、バーチャルの世界観に憧れたりする方は、今が飛び込む良いタイミングだと思っています。憧れた未来はいきなりはやってこなくて、グラデーションがかかって少しずつ近づいてくるもの。今なら最前線で走れるタイミングですから、ぜひVRに興味のある方がいらっしゃったら、一緒に走りたいなと思っています。

「RxRチーム」と「Synamon」は、採択年度が異なり、また一方は社内、もう一方は社外のチーム。それでも「VR」という共通項を通して、年度や社内外の壁を越えて交流し、共に励まし合う姿が印象的でした。お互いに切磋琢磨し、VRコミュニケーションのこれからを担っていく両チームの今後に期待です。
*RICOH Virtual WorkplaceはUnreal Engineを使用しています。




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