地方都市の熱量と、大企業のアセットはどう混ざり合えるか。 「スタートアップ都市」福岡の実業家とTRIBUSカタリストが語る共創の現在地と未来

2012年の「スタートアップ都市宣言」を背景に、独自のエコシステムを築いてきた福岡。2017年には旧大名小学校を活用した官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」(以下FGN)、2025年には世界的なイノベーション拠点「CIC Fukuoka」(以下 CIC)が開設し、起業家や海外企業が集まり、スタートアップの熱量はさらに高まりをみせている。今回は、福岡のスタートアップシーンに長く関わってきた嶋田氏を迎え、福岡で活動する2名のTRIBUSカタリストが対談。華やかな成功事例の裏側にある「コミュニケーションのギャップ」や「地方ならではの人材課題」など、泥臭くもリアルな現場の声を紐解きながら、これからの共創のあり方を考えます。


嶋田 康亮 スタートアップパートナー株式会社 代表取締役CEO
常盤 匡史 株式会社リコー 経営企画本部 デジタルビジネスイノベーション事業部
共創ビジネスセンター GEMBA DX事業室 フィールドソリューション事業グループ
今村 和淳 リコージャパン株式会社 人事・コーポレート本部コーポレートセンター 
中国・九州ビジネスサポート部 クラウド管理グループ

現在の福岡エコシステムの「熱量」と「課題」とは

―まずは自己紹介と福岡との関係を教えてください。

嶋田:私は熊本出身で、2011年の東日本大震災を機に福岡に引っ越してきました。当時、「九州には仕事がない」と周囲に心配されましたが、ちょうど「スタートアップカフェ」ができるタイミングでした。その後、相談員として関わることになり、現在は外国企業の日本進出支援を行う会社を立ち上げ、CICに入居する海外企業の支援や、福岡市の「エンジニアカフェ」で海外との連携業務などを行っています。

福岡でスタートアップ支援を行っている嶋田さん

常盤:私は新卒でリコーに入社し、2018年に東京から地元福岡へ戻ってきました。リコーがスポンサーになっているFGNとの窓口を担当しながら、スタートアップとの連携を模索しています。昨年はFGNでTRIBUSのイベントを開催し、カタリストとしても活動しています。

今村:私は、ITスタートアップなど数社を経て2022年にリコージャパンにキャリア入社しました。これまで、管理部門での20年のキャリアがあります。TRIBUSに興味を持ち、昨年からカタリストとして観光分野などを担当しています。

写真(左)今村さん(右)常盤さん

――FGNとCICにはどのような違いがありますか。

嶋田:FGNには起業前から創業数年くらいまでの企業が集まっています。「起業してみようかな」という段階から相談でき、行政書士や税理士などによる相談会もあります。一方、CICは創業後さらに成長したい企業や、グローバル展開を目指す企業が多い印象です。海外VCや海外企業との接点も多く、FGNからCICへステップアップする企業も出てきています。

――福岡のスタートアップシーンの注目分野を教えてください。

嶋田:個人的にはフードテックです。福岡の強みはやはり「食」で、海外から来た人も食や自然との近さに魅力を感じています。ただ、食の分野にはまだスタートアップやテクノロジーが十分入り込めていない。既存の強みをテクノロジーで広げられれば、福岡らしい価値になると思います。

今村:私はアグリテックに関心があります。農家に転身し、イチゴ農家をはじめた友人を筆頭に、友人知人に農業に関わる方が多いためです。農業生産者とITとの距離を埋めていけば、もっとスマート農業の可能性は拡大すると感じています。また、観光分野も同じで、福岡の魅力発信にもっとITとスタートアップが関われる余地はあると感じています。

常盤:大学発ベンチャーにも期待しています。九州は学生が卒業後に仕事を求めて関東や関西に流出する傾向がありますが、大学発スタートアップが増えれば地域の雇用の受け皿にもなり得ます。

――福岡の課題は何でしょうか。

嶋田:一つは人材です。特にCXO層は東京に比べて薄い、また、海外VCとの接点も限られています。ただ、近年は海外VCも入ってきて、かなり改善されてきました。福岡市をはじめ行政や民間が継続して取り組んできた成果だと思います。

今村:日本国内での労働人口が減少していく中、地方のスタートアップにおいては人材確保がさらに難しくなっていくと考えます。今後は、その対策が求められていくと思います。例えば、会社の魅力をどんな内容で、どんな方法で発信するか、さらに工夫が求められると考えます。

国内外の起業家を惹きつける福岡というまちの魅力

――なぜ福岡は起業家に注目されるのでしょうか。

今村:海外展開している友人が、東京と茨城に続く拠点として福岡を選びました。理由を聞くと「コスパがいい」と言われておりました。交通の便が良く、食べ物も安くて美味しく、土地の値段も東京ほど高くないため、生活コスパが良いと言っていました。また、日本と海外とのハブ拠点になると評価していました。

嶋田:海外の起業家は、自分だけでなく家族の暮らしも重視しています。安全性や教育環境、住みよさを考えて、東京より福岡を選ぶケースは多いですね。加えて、福岡には挑戦を応援する気風があります。歴史的にも外と交流してきた土地柄が影響しているようで、挑戦を後押しする気風があるのでやりやすいのかなと。

常盤:東京と比べると、福岡はスタートアップも大企業も多すぎないので、お互いの距離が近いんです。FGNでもスポンサー企業と起業家が接しやすく、コミュニティとして顔が見える距離感があります。

――福岡は「支店経済」と言われてきた一方で、「スタートアップ都市」を掲げました。実際に変化を感じますか。

嶋田:福岡は長らく「支店経済からの脱却」をテーマにしていて、その流れにスタートアップ都市という考え方があります。最近は「大企業の支店で働くより、自分でやってみたい」という若い人が確実に増えています。FGNやCICなどで日常的にイベントが開かれ、起業家と接する機会も多いので、「自分にもできるかもしれない」と感じやすいのでしょう。

嶋田:この10年、福岡ではスタートアップへの熱量が途切れずに続いている感覚があります。SNS時代、また震災やコロナ禍を経て、自分らしい働き方を考える人が増えたことも背景にあるのかもしれません。

福岡のスタートアップと大企業が共鳴するためのヒント

――福岡ではどのような交流機会がありますか。

常盤:FGNでは定期的なミートアップやピッチイベントがあり、スポンサー企業とスタートアップ、一般の参加者も活発に交流しています。リコーもTRIBUSのイベントを開催しましたし、他社もさまざまな取り組みをしています。

今村:私は社外でも食や観光系のイベントによく参加しています。すぐビジネスにつながらなくても、人と繋がることで知り得る情報が重要だと感じています。

嶋田:CICでも毎週木曜にThursday Gatheringというネットワーキングやセミナーの機会があり、エンジニアカフェでは技術者が自主的にイベントを開催しています。福岡市が開催するスタートアップ・ビジネスマッチング「RAMEN TECH」をはじめ、海外ビジネス関連やデジタルノマド関連など、国際性を意識したイベントも増えています。

――大企業とスタートアップの連携についてはどう感じていますか。

常盤:リコーといえばプリンターというイメージが強いようで、今はいろいろな事業をしていますが、「何をやっている会社なのか外から見えづらい」と感じています。当社には販売チャネルや顧客基盤がありますし、リコーが注力している領域を発信することが大切ではないかと感じています。

今村:以前、あるスタートアップを社内の担当部署につなぎ、実証実験を行ったことがあります。スタートアップの技術を社内で試し、その後、社内の販路で拡げていくことには、大きな可能性を感じました。

嶋田:一方で、オープンイノベーションやPoCでスタートアップ側がかなり動いたものの、結局採用されないという話もよく聞きます。だからこそ、お互いの狙いやITリテラシーの差を埋めることができるTRIBUSのカタリストのような存在が重要なのだと思いました。

常盤:確かに、カタリストの経験から、大企業とスタートアップは、お互いに求めているものを最初に整理することが大切だと実感しています。そこが曖昧なままだと、無駄な時間を過ごすことになりかねません。

今村:カタリストをするときに最初に言われたのは傾聴力についてでした。スタートアップ側は思いが強く、専門用語や横文字を使いがちですが、大企業側やその先のお客様とは前提条件が異なることも多い。なので、スタートアップの思いを聞き、要点を見つけて、うまく翻訳してコミュニケーションを円滑にして前に進める役割を果たしたいと思っています。

嶋田:海外企業とのビジネスマッチングでも同じで、結局はコミュニケーションですね。技術だけでは進まない。日本企業特有の根回し文化なども含めて、お互いを理解しながら進める必要があります。

「スタートアップ都市」福岡の過去・現在、そして未来

――この10年で福岡はどのように変わり、これから先、どんな都市になっていくと思いますか。

嶋田:福岡はこの10年、日本の地方都市に良い影響を与えてきたと思います。特に髙島市長が36歳で市長になり、スタートアップ都市宣言をはじめ、さまざまな施策にチャレンジしてきたことは大きかった。若いリーダーが積極的に動くことで、地方自治体も変わってきていると感じます。また、地方の尖った人が集まり、自治体の枠を超えてつながるようになったことも、未来への希望だと感じます。

今村:10年前に比べて、「スタートアップ」という言葉自体がかなり浸透してると感じます。以前はスタートアップに転職するというと「何でスタートアップなの?」「やめた方がいいのでは」と不安視されることが多かったのですが、今はポジティブな意見が多いと感じています。今後も、福岡がモデルケースとなり続け、さらに起業家が増えていくことで、地域の活性や交流人口の増加で福岡の魅力も拡大していくことを期待しています。

常盤:福岡では政令指定都市の福岡市と北九州市が盛り上がっていますが、久留米など県南エリアにも流れが広がってほしいです。例えば、久留米は農業が盛んなのでアグリテックというように、地域ごとの特徴を打ち出せると面白いのではないでしょうか。

嶋田:福岡ならではの魅力は、人と人との距離が近く、人のチャレンジを心から応援する風土だと思います。行政、大企業、スタートアップがつながりやすい土壌を生かしながら、これからさらに福岡らしいエコシステムが育っていくことを願っています。

取材場所: Fukuoka Growth Next




Share This

Copy Link to Clipboard

Copy