アクセラレータープログラムをリコーに“インストール”するには。バックオフィスのスタッフが目指すプログラムの未来。

アクセラレータープログラムをリコーに“インストール”するには。バックオフィスのスタッフが目指すプログラムの未来。

リコーアクセラレータープログラム2019もいよいよ大詰めを迎えようとしているが、本プログラムは単発のイベントでもなければ、一過性のムーブメントで終わるものでもない。このプログラムが継続的に走り、イノベーションや新規事業開発が恒常的に行われている状態を生み出すことに真の狙いがある。それは組織のあり方を変え、企業文化を変えようとする取り組みであるといえるかもしれない。その意味で、今回登場する面々は「影の主役」だ。アクセラレータープログラムに参加する者、サポートする者が表の主役だとしたら、彼らは裏側から表の主役を支え、会社組織のあり方にメスを入れていく。法務部、人事部、広報室、総合デザインセンターから事務局としてプログラムに参画する4名に、本プログラムの意義を聞いた。

企業が変革を迫られる、不安定な “いい”時代

――今回のプログラムにおける皆さんの役割を教えてください。

武田修一(知的財産本部 総合デザインセンター)「ちょうどプログラムが立ち上がった2019年1月頃から参加しています。事務局でデザインやコンセプトメイクで悩んでいるときに、デザインの人間が必要だという話になり、お声がけいただきました。

スタート時の、プロジェクトのコンセプトやビジョンをどう表現するか、というところを事務局として一緒になって考え、つくり出してきました。今も、節目節目で何かしら発生するデザイン案件を延々とこなしている感じです」

富井敦三(経理法務本部 法務部)「私は別の法務担当から引き継ぐ形で2019年10月から参画しています。今、リコーアクセラレータープログラムの13チームが取り組んでいる新たな事業、ビジネスの開発において、法律的に問題はないかどうか、どんなビジネス形態で、その場合契約はどうすればいいのか、といったところでサポートしています。チームがやっている内容によって関わり方には違いがあって、結構深く関わることもあります」

本岡麻実(人事本部 人事部)「人事本部として、このプログラムに参加していただいている皆さんのサポートをしています。どういう形態で参加してもらえば良いのか、どうやって評価すれば良いのか。従来の人事制度のなかに収まらないこともありますから、そこを検討・調整します。一番心がけているのは、参加する方々が、人事面で不利益を被らないようにするということですね。専門部署につなぐ、窓口的な役割をしているとも言えます。」

佐橋ゆき子(経営企画本部 広報室)「広報の窓口を担当しています。関わるようになったのは、2019年1月のこと。2月6日のリコーグループ創立記念日に、社内に向けてプログラムを周知するというので、その社内広報を担当したのがきっかけ。このときはわずか1カ月で本当に大変だったんですが(笑)、これを皮切りに、外部へのプレスリリースや社内のインナーコミュニケーションのお手伝いをしています。リコーのブランディングに関わる部分もありますから、関連セクションへの繋ぎやSNSの関連部署と協力することもあります」

――このプログラムを最初に聞いたときにどう思いましたか?

本岡「元々このプログラムに参加していたメンバーがいたのですが、実は私、人事本部でリコーアクセラレータープログラムの担当者を増やそうというときに、社内副業制度を利用して立候補してやらせてもらってるんです。もともとビジネスや新規事業開発には興味があったので、関わってみたかった。その点、関わってみると本当に面白くて勉強になることばかりです。

一方で、人事としては、新しい気付きもありました。こういう大企業の人事は、大勢いる社員に対して公平公正に対処しなければならないものです。しかし、リコーアクセラレータープログラムの場合、人事が今までとは違うやり方も考えていかなければ、プログラムを進めることができません。新しいアプローチ方法を考える必要があると感じています」

武田「僕は、いい時代が来たなって思います。不安定を楽しむことができる、いい時代。僕は10年くらいずっとコピー機の外装デザインをやってきた後に、この2、3年は、リコーアクセラレータープログラムみたいな社内の仕組みづくりのお手伝いをするようになっています。こうした動きは、いよいよリコーも太平の世の中じゃなくなってきたことの現れだと思うんです。毎年、既存事業の売り上げが下がっていく中で、なんとかしなければ、という不安定な時代に入ってきた。だから、新しいことをする機運が高まっている。広義なデザインのスキルを活かせる機会がリコーにやってきたと言えます。 社会や会社の変革の最前線にいられるということも、不安定のおかげで面白いフェーズに入ってきたと思います。」

富井「そうですね、リコーって大きい会社じゃないですか。創業84年と長い歴史もありますよね。そうなると、法務としては同じことの繰り返しが多くなるんです。契約の更新とか、今までのビジネスの延長線上の何かであるとか。 しかし、リコーアクセラレータープログラムは全然違います。まったく新しいことをやろうとしているチームばかりですから、法務としてもすごく新鮮で楽しい。特に若いみなさんが、新しいことにチャレンジしているところにご一緒できるのが、面白いです」

「既存のやり方では通用しない」をどう乗り越えるか

――今までにはない業務であり、異なったアプローチが必要な取り組みだと思います。取り組んでいるうえで、どんなご苦労があったでしょうか。

佐橋「広報というセクションは、意外とカッチリしていて、情報を外に発表するまでに、かなり厳しくチェックしますし、そうした難関をクリアして情報を発信するのは、私たちというより、チャレンジしている皆さんが大変なんだろうと思います。 広報としては、今までとは違うコミュニケーションが必要な点が難しいところだと感じています。例えば、これまでの広報は、新聞社など既存の大手メディアに技術やサービスについて伝えればよかった。しかし、今回伝えたい相手は、ベンチャー企業の皆さんや一般の方々だったりと、今までお付き合いのあったメディアとはまったく違うところにも訴求していかないといけません。また、これまでリコーについて語るときには、技術ならこう、事業についてならこういう語り方、というようなやり方がある程度決まっていましたが、今回はそれにはハマらないんです。

また、チームそれぞれで求めているもの、出そうとしているものも異なりますから、その期待にどう答えるか。特に、チームの皆さんの情熱や想いを表現していくのが大切だと感じています。広報は事実を伝えるのが原則ですが、その裏にある想いや考えによって、伝わる内容の深みが変わると思います。それをどう引き出し、表現するか。そこは広報としての取組課題だと思っています」

富井「個人的には、今まで知らなかった新しい事業領域に関わることが多いので、そこの勉強が大変ということはあります。通常業務なら、ある程度自分の専門ベースの中で済みますが、そこに収まらないものが多いというか。 もうひとつは、取り組み方の違いがあります。弊社は固い会社なので、何かやろうとするときは、ものすごい調査をして、すべてクリアランスを取って……と、石橋をじっくり叩きに叩いて渡るか、橋を壊しちゃうかの2択だったと思うんです。でも、今回のプログラムはそこが違っていて、とりあえずどんどん進めちゃおう、わからない部分は一緒に歩きながら考えようというスタンスなんですね。各チームとこれだったら大丈夫だよね、それだったらこういう契約したほうがいいよ、といったことをリアルタイムで、同時並行で進めているのは、刺激的ですが、同時にすごく怖い。しっかりしておかないと何が起こるかわからないので、良くも悪くも疲れるということはあります。

従来の法務は、どちらかといえばルールが先にあって、その枠の中でやっていればいいけど、はみ出したら注意するというやり方です。しかし、今回は逆で、事業が先にあって、後ろから法務が追いかけている。法務としてもアグレッシブでないと付いていけないというところはありますね。

もともと、法務内部でもそういうことをやろうという話はあったんです。今まで通りじゃダメだよね、一緒になって事業を広げようと。『新しい事業は作ったけど、法務的にダメ』という“新規事業あるある”があるんですが、そこで押し問答するくらいだったら、最初から一緒にやっておけと。そういうマインドセットは法務の中で共有されていたという背景はありました」

本岡「人事も固いところが疎んじられる部署だと思うんですけど、人事として、一番やらなければいけないことは、参加するみなさんが安心して働ける環境をつくることだと思っています。 このプログラムは特別だとは言っても、人事として外してはいけないポイントもあります。労働時間の管理や評価方法などがそこに当たります。変えても良いところと、変えてはいけないところを整理し、個別に対処を検討するのが大変な点だと思っています。どうしても既存の人事のやり方・考え方に縛られてしまうこともあります。

例えば、評価のやり方については、通常の人事評価もそうですが、定量的な評価だけでなく、定性的な部分もあります。アクセラレータプログラムはアイデアを磨くところから始まり、ピッチを行い、事業化に向けて動き出す・・・というのはリコーではあまり発生しないプロセスですので、成果としても確認しづらい。なので、事前に評価の考え方、評価するポイントを確認し、本人たちにも整合をとるというプロセスを踏んで、納得感につながるよう工夫しています。また、気をつけているのが、『チャレンジしていることを評価する』ということと、『チャレンジしていることを評価しすぎない』ということ。周囲の協力がなくてはチャレンジはできませんので、チャレンジしている人が、周囲から見て妙に浮いてしまうのは良くないのではと思っています」

会社組織、企業文化を変えるために

――今回のプログラムを通して、社内や部署が変わったことがありますか。ルールや体制、雰囲気など、教えてください。

武田「雰囲気としてはまだまだかな。やりたいことがあったけど、なかなか認めてもらえなかったという、ごく一部の人たちがワッと参加して、局所的に盛り上がっているのが現状かなあ。別の事業所のエンジニアに話しても『なにそれ』という人はいっぱいいます。もう少し認知が進んで盛り上がって、新規事業を立ち上げたいというときに、『既存の枠組みだと面倒だからリコーアクセラレータープログラム使おうぜ』と普通の選択肢に出てくるようになってほしいですね。それが若い人たちのエンゲージメントにもつながると思うし。

そのためにも、特に参加者の直属の上司たちの認識が変わる必要があると思うんですよ。確実性を重視する考え方から離れて、アクセラレータプログラムに参加させることが評価につながるような仕組みがあればいいと思います」

富井「そこは私も同感で、会社全体が何かに気付ければ良いと思います。これまでは、本当に良いものがあっても、検討協議されるレベルに行く前に潰されてしまうことが少なからずありました。しかし、このプログラムによって風通しがよくなって、自分たちの判断で動かせることが増えている。こういう状況が継続することも重要ですが、一部の動きではなく、会社全体に影響を与えていってほしいですね。法務も、マインドセットは変わったとは言っても、本当に一歩踏み出せるかはまだ未知数で、このプログラムで小さくてもいいから成功体験を積むことが必要じゃないかと思っています」

本岡「会社の雰囲気が変わるかどうか、新しい社内文化として定着するかどうかは、これからかなと思います。それを、今後このプログラムを継続しながら、どう実現するか。人事としても、会社としてもチャレンジになっていくと思います。

とはいえ、この1年取り組んできた中で、いろいろな参加の仕方があると分かってきました。応募する、サポートする、カタリストとして活動する。いろいろな関わり方があります。社員の皆さんには、どのような形でもよいから、新しい事業を作り出すということころに、関わってほしい。すごく勉強になるし、今後皆さんの働き方、考え方、表現の仕方で学ぶことは多いはず。この機会をうまく使ってほしいです。私たちは、そのための環境を提供していくのが役割なんだろうと思います」

佐橋「実は私、広報の前は研究職だったんです。だから雰囲気も大事だけど、リコーアクセラレータープログラムは研究にもいいなと思うところがあります。正規のルートだとなかなか公開できないアイデアや研究内容を、このプログラムだと世に問うことができる。少なくとも社内に向けて問うことができるのはいいと思いますね。

個人的には、プログラムを通して別部署の人たちと横断的に関われる環境が生まれているのはすごく新鮮で面白いと感じています。先日も、あるチームがクラウドファンディングを立ち上げたいという相談があって、法務、製造、QA(品質保証)、それから広報が一堂に会して話し合ったんですが、あれは良かった。普段、私たち広報が法務やQAの方の話を聞く機会ってないじゃないですか。すごく勉強になりました」

富井「確かに、ああいう場はめったにないことでしたよね。個別にやるくらいなら、一緒に集まってバーっと話しちゃったほうが早いというのは、今までにはない感覚ですね」

――今後期待していること、ご自身で挑戦していきたいことなどがありましたら教えてください。

佐橋「個人としては、リコーアクセラレータープログラムを通して新規事業開発にかかる部署、人が、もっとコミュニケーションを取れる環境をつくれたらと思っています。それは、もともと私が広報をやりたかった理由でもあるんです。何かを作っても、世の中に出すことが叶わず、フィードバックを受けることなく終わってしまうのがとても悲しかった。もし出すことができたら、もしかしたらどこかにニーズがあることが分かったかもしれないし、何かヒントをもらうこともできたかもしれない。しかし、このプログラムではそれが可能で、同時にフィードバックを受けることができる。パートナーやお客様につながることができて、ぐっと進むこともあるかもしれない。そのためのコミュニケーションの機会をもっと増やすのが、私たちの役目でもあると思っています。

広報としては、リコーが変わろうとしている今、情報の出し方をどう変えていくかがこれからの課題だと思っています。リコーとして守りたい部分は押さえつつ、それ以外のところは、どんどん変わっていかないといけないと感じています」

本岡「リコーアクセラレータープログラムに限らず、現在はリコーという会社が大きく変わろうとしている時期だと思います。人事としても、動こう、変わろうとしている時期。私の役割は、このプログラムで得たものを、人事本部にきちんと持ち帰ることです。こういった今までにない新しい動きを、人事として、リコーの社内文化に合ったやり方に落とし込んでいくことが大事だと思います」

富井「法律には反してないけど、道徳的にどうかと思う、ということってあるじゃないですか。法務部は、多くの場合法律違反のところでしか線を引けないし指摘もできないという立場ですし、事業をやるほうでも、法律違反していなければ道徳的な側面には気にしないでやっちゃうことも往々にしてあるんですよ。でも、そこは誰かが見ないといけないことですよね。

本当は、法務がそういうところまで目を配れたらいいなと思うんです。やっていいか悪いかというラインは、実は法律のはるか手前にあるはずで、そこから全体を見て、広い領域で仕事ができたらいいなと思います。抽象的だけど、リコーアクセラレータープログラムを通して、そんなことを実現できたらと考えています。

もうひとつ、リコーアクセラレータープログラムという『いいこと』を、どうやって企業文化の中にインストールしていくかが、組織としての一番の課題だと思います。これだけの大企業で、確固たるやり方を持っている企業がこのプログラムのようなものを文化として取り入れるのは相当難しいと思います。その解決方法を考えるのが、これからの私たちの仕事かと思います」

武田「こういう新しいことをやる時って、必ずデザイナーの手が必要になるんですよね。でも今、会社規模にしてはデザイナーの人数が少ないので、この機に乗じてデザイナーを増やしてほしいなと思ってます(笑)。

それに、『デザイン』にできる仕事の幅が実は広くて、コピー機の外装やインタラクションをデザインするばかりがデザイナーの仕事じゃない、コンセプトメイクしたりブランディングしたり、コミュニケーション方法を考えたり、そういうのもまたデザインの仕事だと理解されてきた。こういう仕事を、

商品デザインを担当している若いデザイナーにも両輪で経験してほしいと思うんですよ。

デザインセクションは、まじめな大企業にあって、かなり特殊で、自由に物事を考えることが許されていると思うんです。だから、変化の時を迎えたリコーにとって必要な新しい視点をもたらせる存在であればいいなと思います。それが会社のカルチャー変化に貢献につながると尚よいと思います」

PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA (YUKAI)

TEXT BY Toshiyuki TSUCHIYA

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