「TRIBUS 2024」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」開催レポート<Part 1:社内起業家編>

2月7日(金)、事業創出・共創を目指す社内外統合型のアクセラレータープログラム「TRIBUS 2024」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」が株式会社リコー本社で開催されました。昨年9月の統合ピッチで採択された社内起業家5チームは事業化を賭けた発表を、リコー各事業部との連携・実証実験を進めてきたスタートアップ企業9社は、その後の成果を発表しました。レポート<Part1>では、社内起業家5チームによるピッチの内容をご紹介します。


冒頭、株式会社リコー代表取締役会長※の山下良則は、次のように開会の挨拶を行いました。

※2025年2月時点

「2024年度のInvestors Dayが始まります。今回で6回目の開催となります。このプログラムは、社内起業家と社外のスタートアップベンチャーが統合ピッチを行うことで、社内の活性化を促すとともに、社外のスタートアップにも何か貢献できるのではないかという思いで始めました。昨日、スタッフに確認したところ、この6年間で社内の起業家から443件の応募がありました。これは、『挑戦してもいいんだ』という雰囲気が社内に広がってきた証拠ではないかと思います。

また、このInvestors Dayを通じて選ばれた16の社内起業チームが、事業化に向けて挑戦を続けています。そのうち5つほどはすでに終了し、新規事業として事業部に組み込まれました。また、2社が経済産業省のサポートを受けながら、社外での出向起業に挑戦しています。

一方、社外のスタートアップ企業からの応募数は771件を超えました。これは『リコーに応募すると面白そうだ』という認識が広まっている証かもしれません。その中で50のテーマが、社内のリソースを活用しました。

リコーの特徴として、『カタリスト』の存在が挙げられます。カタリストとは、社内のメンバーがスタートアップと協力してプロジェクトを進める際、橋渡し役として活躍する社員のことです。今まで104名のカタリストが活躍してきました。このような文化が根付きつつあり、社内のスタートアップ支援組織も成長を続けています。

企業の成長は業績向上の延長線上にあると考えがちですが、私は最近、『社員の成長が先にある』と強く感じています。社員が成長し、パートナーと共に発展していかなければ、会社そのものの成長は実現しません。



昨日2月6日はリコーの創業記念日で、当社は創立89周年を迎えました。100周年に向けて、カルチャーの変革と事業のトランスフォーメーションを推進しなければなりませんが、これは社員がリードすべき取り組みです。その一環として、今年は『Foundation Week』として、国内外でさまざまなイベントを実施しています。本日のInvestors Dayは、その締めくくりとなります。

リコーの創業者、市村清は『儲けるより儲かる経営」を提唱していました。例えば、戦後の東京には結婚式を挙げる場所がなく、多くの若者が困っていました。市村は『結婚式場を作れば喜ばれるだろう』と考え、明治記念館の結婚式場を立ち上げました。『儲かるだろう』ではなく、『喜ばれるだろう』という発想が重要です。社会課題を解決し、人々に喜ばれる事業こそが、結果として成長につながるのです。

今日のスタートアップや社内起業家の皆さんも、誰かの役に立ち、喜ばれることを目指しているはずです。儲けようということだけが先走ると、儲ける経営になってしまいます。

利益を追求するだけではなく、社会の役に立つという視点を持つことが、持続的な成長につながると考えます。

昨年末には『すべての“はたらく”に歓びを!』という書籍を出版しました。この本には、TRIBUSや副業制度で目指したことをまとめています。社員だけでなく、協賛企業やパートナーの皆さんにもぜひ読んでいただき、フィードバックをいただければと思います。現在、英語版も制作中で、海外5万人の社員にも共有する予定です。それを起点に議論をできるような仲間でありたいし、会社でありたいというふうに思っています。

長くなりましたが、本日もInvestors Dayを楽しんで進めていきましょう。ありがとうございました。」

今回社外審査員を務めたのは以下の6名です。
・別所隆之氏(SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長)
・高塚清佳氏(インパクト・キャピタル株式会社 代表取締役)
・岡洋氏(Spiral Innovation Partners株式会社  ジェネラルパートナー)
・萩谷聡氏(株式会社ANOBAKA パートナー)
・麻生要一氏(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO)
・土井雄介氏(株式会社ユニッジCo-CEO)

社内審査員は以下の3名が務めました。
・山下良則氏
・笠井 徹氏(リコージャパン株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO)
・野水泰之氏(株式会社リコー CTO)


社内新規事業チームのプレゼンテーション


Investors Dayの前半は、社内起業家5チームのプレゼンテーションが行われました。この最終審査を通過し、採択された3チームは、新規事業の立ち上げ・事業化に本格的に取り組んでいくことになります。

※以下、事業概要/所属/代表者名の順

1. 「“聴く”歓び」を「“はたらく”歓び」に

リコージャパン PP事業部 広域営業課 販売促進グループ 松山 良幸


松山氏のチームが目指すのは、属人的ダメマネージャーをプロの傾聴力で変容させる「傾聴による伴走サポート」サービスのリリースです。

前回の統合ピッチでは、審査員から労働集約型サービスであることを指摘されていた松山氏。今回、統合ピッチでは残念ながら採択に至らなかったスタートアップ企業、株式会社TIELECの内省支援アプリ「リフクラ」とのコラボレーションを発表し、課題を解決できたと報告しました。

また、このコラボレーションには審査員の一人である笠井 徹氏の助言によって実現したことも明かされました。

自身もかつて仕事がつまらないと感じていたと語る松山氏は、「人は感情によってしか自発的に行動しない。重要なのは真の傾聴力だ」と強調。「リフクラ」との共創では、傾聴力と松山氏のチームが独自に開発したエンゲージメントサーベイを学習させた「リコーエディション」を作成したと述べました。

すでにPoC(概念実証)を実施している企業からは、「採択されればすぐにでも導入したい」という声が寄せられているとのことです。

最後に松山氏は、「このソフトで、全ての働く人に歓びを提供していきたいと考えています」と締めくくりました。

2. 義歯と、それが欲しい歯科医を適正条件でマッチング

リコー 未来デザインセンター TRIBUS推進室 瀧居 真梨子




瀧居氏が立ち上げを目指しているのは、義歯とそれを必要とする歯科医を適正な条件でマッチングするプラットフォームです。

技工物は歯科技工士という職人によって作られています。日本の高齢化に伴い、歯科技工業界市場は年間2%の成長が見込まれており、瀧居氏はニーズの高まりを背景に必要不可欠な職業と考えています。

しかし、低賃金・長時間労働・8割の離職率により職人不足が深刻化している現状があります。技工物を適正な条件で取引できる環境を作ることが課題の解決につながると考え、瀧居氏はより高度な技術が求められる自費治療にターゲットを絞りました。

統合ピッチから現在まで行ったPoCでは、3ヶ月間で84万円の売り上げ(歯科技工物の取引)を達成。歯科医師と歯科技工士の双方から感謝の声があり、手ごたえを感じたといいます。

一方で、歯科医師は有償への切り替えに難色を示したものの、歯科技工士からは「手数料を払ってでも依頼したい」という声があり、再度ニーズを確認しました。

競合するマッチングサイトも存在するなか、瀧居氏のサービスは、単なるマッチングではなく、歯科技工士に対して適切な歯科医を「紹介」する点に強みがあると語りました。顧客開拓や単価の課題に触れつつ、採択後の計画についても述べ、発表を締めくくりました。

3. odorgraphers 官能検査のDX

リコー 先端技術研究所 HDT研究センター ID研究室 HFI研究グループ 氏本 勝也




今回の技術開発の要となるのは、FAIMS技術です。従来の大型分析装置を小型化し、現場での使用を可能にしました。

統合ピッチでは、ビジネスモデルや顧客の有無について審査員から指摘を受け、それを踏まえた検証活動を実施。その結果、顧客との価値検証は無償12件・有償4件と良好な成果を収め、氏本氏は自信をもって顧客からの期待を強調しました。

検証を通じて、FAIMS技術は微量アンモニアの検知に優れ、リアルタイム性、低コスト、可搬性という強みがあることも明らかになりました。

国連決議では、各国に対して環境中の窒素化合物の削減が求められており、日本でも持続可能な窒素管理に関する行動計画が策定されています。その中で、大気中の微量アンモニアのモニタリングが言及されていることから、氏本氏はここに将来のビジネスチャンスを見出しました。

最後に氏本氏は、「デジタル嗅覚の力で、人と地球が共存できる社会づくりに貢献していきたい」と締めくくりました。

4. AI活用による高齢者包括見守りシステム

PFU 事業開発本部 KYC事業部 Kaoraビジネス開発部 営業企画課 櫻井 玲子




櫻井氏のチームが提供するのは、家族と離れて暮らす高齢者の体調を、二酸化炭素濃度の変化から検出する、AIを活用した高齢者包括見守りシステムです。

このサービスの発端は、櫻井氏自身の原体験から生まれました。コロナ禍に遠方で一人暮らしをしていた祖母が脳梗塞で2度倒れた際、偶然近所の方が異変に気づき、命を救われたことがきっかけでした。

厚生労働省のデータによると、約70%の物件オーナーが高齢者の孤独死を懸念して入居を敬遠しています。一方で、高齢者の賃貸物件の需要は高まっており、約60%の物件オーナーが見守りサービスがあれば高齢者の入居を受け入れる意向を示しています。

櫻井氏は、「物件オーナーが安心して貸せる環境を整え、高齢者も希望する物件に安心して住める、そんな理想の社会を目指しています」と力強く語りました。

この課題を解決するために、櫻井氏のチームは、電池交換や工事不要で、温度・湿度・照度・気圧・二酸化炭素の5つの環境データをセンシングできるリコーのEHセンサーを活用することを決定しました。

システム開発は、統合ピッチで採択されたスタートアップ「株式会社a.s.ist」が担当し、営業はリコージャパン株式会社所属の増田氏が担うという、強力なチーム体制で取り組んでいます。

最後に櫻井氏は、「私たちは監視ではなく、居心地の良い“息づかい”を感じられる空間を提供し、より安心で温かなつながりのある社会を目指します。ぜひお力をお貸しください」と審査員に訴え、発表を締めくくりました。

5. 倉庫業の未来を変える〜新しい入庫管理〜

PFU インフラカスタマサービス事業本部 サービスビジネス営業統括部 第4営業部 第3営業課 富岡 奈緒輝




富岡氏のチームが目指すのは、非効率な倉庫業務の改善と現場担当者の負担軽減を目的とした、「倉庫業の未来を変える~新しい入庫管理~」の提供です。富岡氏のチームは、同期5名でTRIBUSに挑戦している若手チームです。

現在の入庫管理では、荷主メーカーから倉庫に納品物と納品書が届いた後、開梱して、納品書と現物の照合を行います。その内容が正しければ、自社の在庫管理システム(WMS)に反映し、その後、在庫管理や出荷手続きへと進む流れになっています。

しかし、倉庫によっては20桁の型番を1桁ずつ確認するケースもあり、入庫業務の手法は25年前から変わっていないという課題もあります。

そこで富岡氏のチームは、PFUのAIキャプチャー技術とリコーの画像認識AIを組み合わせ、紙と現物をスマートフォンで撮影するだけで自動検品ができるシステムの開発を進めています。

この技術を導入することで、1カ月あたり240時間の業務削減が見込まれており、すでに導入を希望する声も寄せられています。

最後に富岡氏は、「物流の中核を担い、日本のモノづくりを支える倉庫業に対し、リコーの技術で貢献していきたいと考えています」と熱い思いを語りました。

結果発表



社内5チームのうち、社内起業賞に選ばれ採択となり、事業化フェーズに進むのは次の3チームです。

●odorgraphers 官能検査のDX
●AI活用による高齢者包括見守りシステム
●倉庫業の未来を変える〜新しい入庫管理〜

審査員の株式会社ユニッジCo-CEO 土井雄介氏は、今回参加した社内チームに向けて次のようにメッセージを送りました。



「私自身もそうでしたが、新規事業や起業は、最初は何もないところから始まるものです。一度挑戦してみると、その魅力に引き込まれます。今日この場にいる皆さんの中には、『自分には関係ない』と思っている方もいるかもしれません。しかし、こうして話を聞いているということは、少なからず興味を持っていただいている証だと思います。

ほんの少しの行動やきっかけが、大きな変化につながります。実際に、昨年この場にいた人が今年はグランプリを獲得したのは、本当に素晴らしいことです。チームの皆さんの努力には心から敬意を表します。

今日お聞きいただいている皆さんも、最初の一歩を踏み出すことで、やがて事業として成長し、活躍していく未来があるはずです。その可能性を少しでも感じていただけるよう、私も全力でお伝えしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

レポート<Part2:スタートアップ編>に続く
https://accelerator.ricoh/2025/05/20/tribus2024investorsday-2




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