Beyond Mobility×TRIBUS アクセラプログラムの相互乗り入れの可能性 必要なのはワクワクとゆるやかなつながりだ。

他社との連携に意欲的なのはTRIBUSの特徴のひとつだが、TRIBUS 2022では、より一歩、深く踏み込んだ連携が生まれていた。住友商事の新規事業開発を専門に行う部署「Beyond Mobility事業部」とのコラボがそれだ。TRIBUS2022の最終成果発表会Investors Dayで協賛企業賞に名を連ねていたことでその存在を知った人もいるかもしれない。Beyond Mobility事業部は部門内の社内起業・アクセラレーションを発足させており、2023年は協賛企業賞の提供だけでなく、相互のリソースを提供しあうコラボレーションが行われたという。アクセラプログラム同士の相互乗り入れという格好になったこの関係。経緯と今後の展望を聞いた。


飯田尊彦さん
住友商事株式会社
Beyond Mobility事業部 Beyond Mobility第一チーム 第一チーム長

山内美優さん
住友商事株式会社
Beyond Mobility事業部 Beyond Mobility第一チーム

森久泰二郎
株式会社リコー
未来デザインセンター TRIBUS推進室
TRIBUS運営事務局/TRIBUSスタジオ館長




住友商事株式会社 飯田尊彦さん 2006年、住友商事入社。入社から10年間、リスクマネジメントに係る組織に所属、営業部の行う投資・トレード案件の審査・サポートを担当。この間の3年間、中国(上海)駐在を経験。その後、自動車部品の製造に係る営業部に異動、5年間の間に、足回り部品・パワートレイン部品領域において、既存出資会社の主管業務・部品会社への新規出資案件検討・製造領域でのDXに関する新規事業開発、等を推進。21年4月、Beyond Mobility事業発足とともに異動し、モビリティ×異業種のコンセプトでの事業開発に注力。


――住商・Beyond Mobility事業部とTRIBUSの関係が始まったきっかけを教えてください。

森久 2022年の春頃から、新規事業の立ち上げのプログラムを運営されている方々から、情報交換しませんかといったようなお問い合わせをいただくようになってきたのですが、住友商事さんからは、かなり早い段階でお声がけをいただいたんです。

飯田 我々の「Beyond Mobility事業部」ができたのが2021年の4月で、1年くらいは部内でインキュベートしていく体制で取り組んでいましたが、より多くの人の知恵や熱意を借りることでアイデアの質と量の高めようということになり、部門内で社内起業の公募制度を立ち上げました。その折に他社のプログラムの状況などを調べていたところ、TRIBUSのサイトを見つけて、かなり先進的であると感じたんです。特に案件を支えるサポーターの制度、事務局のサポーティブな活動。これはちょっと勉強させていただきたいなと思って、コンタクトしたんです。まあナンパみたいな感じでした(笑)。

森久 ナンパでしたね。悪い人じゃなさそうだからとホイホイついていってしまったのが僕です(笑)。

山内  TRIBUSが、定期的に情報発信している点も見習わせていただきたいと感じたところでした。他のアクセラレーションプログラムは、そのプロセスの情報を対外的に出すことは少なく、ひっそりと取り組まれることも多いのかなと思います。その意味でTRIBUSは、社内起業とアクセラが一緒になって、回数を重ねるごとに洗練されて整っていく感じがすごいなって。

飯田 仕組みで言えば、アイデアを応募してもらう体制を作っているところも見習いたいところです。新規事業創出の初期段階では、アイデアは質よりも量が必要で、その量のためには、多様な人から吸い上げる制度が必要です。それが公募制度でもあるのですが、さらに発案を促すための仕組みが必要だということなんです。
 また、出されたアイデアを育てていく、支援する体制というのも重要で、リコーさんで言えば、それがサポーターズ制度です。ゼロイチ案件の育成を自ら支援したいと思う人たちをリスト化し、かつその人たちができるサポートの内容をハッシュタグで整理して打ち出している。この2点がアプローチした大きな理由です。


 width= 住友商事株式会社 山内美優さん 2017年、住友商事入社。入社から4年間、自動車製造に係る営業部にて、製造領域に於ける新規事業開発を1年間・自動車メーカー向け自動車部品トレード業務を3年間担当。トレード業務従事期間中は、広島にて勤務。21年4月、Beyond Mobility事業発足とともに異動し、モビリティ×異業種のコンセプトでの事業開発に注力。


――Beyond Mobility事業部の活動について教えてください。

飯田  Beyond Mobility事業部はMobility×異業種のコンセプトで事業開発に専門的に取組む部署です。もちろん既存の事業部でも周辺領域の新規事業を追いかけていますが、我々がやっているのは、既存部署ではテイクアップできない少しビヨンドの領域、または既存事業とはコンフリクトがあるようなものになります。
2021年4月に発足し、2022年4月から部門内の新規事業公募制度「Beyond Mobility チャレンジ」をスタートしました。募集したアイデアは複数回の審査でふるいにかけ、選択されたものは実証実験や事業化へと展開していきます。初年度は8件応募があり、2件が通過し、1件の実証実験が進められています。2年目(2023年)は14件の応募があり、8月に1回目の審査を行っており、24年1月に2回目の審査を行います。


――事務局同士の交流、情報交換などされているそうですが、それはどのように実施されていますか。

飯田 2022年4月にお声がけしてすぐに、最初の事務局同士の情報交換をさせていただきました。その後、秋くらいに、我々の部でもサポーター制度を立ち上げました。本当にTRIBUSの真似をさせていただいてしまって。真似というかパクリというか。

森久 パクリじゃなくてオマージュ?(笑)

飯田  社内イントラネットで、手挙げで募集して、スキルを書いてもらったり、ハッシュタグベースで趣味でもなんでも経験を書いてもらったりするところも同じやり方です。これは、輸送機・建機事業部門内だけでなく、社内にポスターを貼って告知したり、全社的に募集したりしています。実は社長もサポーターになってくれているんですよ。今のところ80名ほどが登録しています。

森久 このあたりのBeyond Mobility事業部さんの動きはとても不思議で、一部門でやっている取り組みなのに全社的に波及していっている動きがすごく興味深いですね。社長も登録されているように、ゆるやかなトップコミットメントがあるのは素晴らしいですよ。



株式会社リコー 森久泰二郎


――相互のプログラムのコラボもしているとお聞きしました。

山内 お互いのサポーターに協力してもらい、“壁打ち”をしています。社外のより客観的な視点から、案件に関わっていないからこそ忌憚のないご意見をいただけるのではと考えたためです。また、業界が異なるからこそ、商社にはないものづくりの専門的な知識を持つリコーさんのアドバイスをいただけるのではないかという思惑もありました。
リコーさんから、サポーターズのリストをいただいていて、さらにこちらの案件にリンクするキーワードも拝見して、サポーターの方を選ばせていただいて、壁打ちをお願いしました。第1回目は2023年3月、こちらのプロジェクトメンバー2人に対して、サポーターの方を4名お願いして、1時間半ほど。その時の案件はドローンに関連したものでした。ドローンのユースケースについて想定していることはありましたが、それが妥当かどうか。現場や工場との距離が近いメーカーさんの中ではどういうシチュエーションで使われうるのかを壁打ちしてヒアリングしようと思ったんです。
やってみると、非常に示唆に富んだご意見をいただけて良かったなと。社内ではメーカーさんの物流について実体験を持つ人が多くなく、リコーさんのサポーターの皆さんからは、具体的なアイデア、ご意見をいただけました。

森久  今回のケースでは、住商さん側が、ドローンの利活用が可能な生産現場、物流現場を想定されていたので、ドローンそのものに詳しい人間というよりも、そうした現場に精通したサポーターを選んでいただいた格好でしたね。


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山内  そして2023年12月に2回目を実施。このときの案件は3Dプリンター。まだアイデアは柔らかい段階でしたが、リコーさんにはそれこそど真ん中の皆さんがいらっしゃるので、専門家の目から見て、アイデアについて率直なご意見やアドバイスをいただきました。

森久 このときは技術系だったので、海老名のファブラボスペースでやったんですよね。「Beyond Mobility」だから、移動が中心かと思ったら、コンセプトを非常に抽象化して領域を幅広く保っているのがスゴイなと思いました。



――逆に住商からTRIBUS側にサポーターを提供したケースではどのようにやられたのでしょうか。

山内 2022年のTRIBUSの統合ピッチを通過したうち、3チームに弊社のサポーターによる壁打ちを提供しました。
例えば、事業承継のアイデアのチームには、弊社でM&Aを担当しているサポーターだったり、実際に家族で事業承継に悩んでいるサポーターを連れてきたりしています。キャリア上のスキルだけでなく、プライベートの経験やバックグラウンドも登録していますので、そこからピックアップしました。壁打ちを提供した3チームのうち2チームが最終審査で採択されたことは、弊社としてもうれしく思っています。

森久 社内だけではリーチできない方々からお話を伺う機会を設けられたことは、チームにとって、非常に良い経験になりました。
また、TRIBUS的には、社内のサポーターが社外に対しても力を発揮することができるということを教えていただきました。そういう発想がまったくなかったので、ご提案いただいたときに膝を打つ思いでした。新規事業の創出は、自社の中に有識者や経験者がなかなかいないものです。外の声を聞かなければいけないフェーズに絶対なるものなのですが、そういうときにサポーターズの人たちの知見や経験が、社外に向けて活かせるんだと、気付かされました。


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――お互いのコラボや、Beyond Mobilityチャレンジなどのアクセラにおいて、一番ワクワクする瞬間とはどんなことでしょうか。

山内 私は申し込んでくる動機が面白いと思っています。申し込むに至るまでに、応募者それぞれの思いがあると思います。現状に満足していない人もいるかもしれませんし、何かにチャレンジしたいと思っていたのかもしれません。そのモチベーション、一歩踏み出すきっかけがどこにあったのか、それに触れたときに、すごく心が動かされます。

飯田  僕はそうですね……いろいろな案件がありますが、そのまま順調に進むことのほうが少ないんですよね。それで行ったり来たりするんですけど、どこかでその壁を超える瞬間がある。例えばアーリーステージのアイデアだと壁打ちでボコボコにされながらも、いくつかの案件においては、僕らの想像を超えるようなアイデアや仮説になることがあって。この瞬間はすごく震えますね。


――お両社の関係の今後について、想定されていること、期待がありましたら教えてください。

飯田 お互い、その都度必要だなと思うときに壁打ちをお願いする感じでしょうか。気軽にお互いを“頼れる”のが良いかと思います。軽く言っていますが、他の企業とこういうことができるというのは、なかなかありません。リコーさんとお付き合いしていると、ごく普通にやってしまうところがありがたいし、スゴいことだと思います。アイデアの創出活動も続けていきますから、引き続き柔らかいアイデアの壁打ちをさせていただければと思いますし、応募の案件が減らないようにするための施策や、社内の連携の取り方など、事務局的な観点でも学ばせていただきたいとも思っています。

森久  僕らも、住商さんに壁打ちしてもらうことですごく幅が広がったと感じていますので、ぜひ継続していけたらと思います。あと、TRIBUS2022ではインベスターズデイで、協賛企業賞という形でスタートアップさんに対しても賞を出していただきました。これは今後、住商さんが共創したいということにつながればいいなという思いもあります。
 こうやっていろいろ考えていると、結構本当に、いろいろな面でできることが増えていくんじゃないかと期待していますし、楽しみにもしているところです。リコーはメーカー気質で、小さい部品の一つ一つから自分たちで作りたがるんですけど、住商さんの「誰かと一緒にやる」という姿勢、考え方がすごく刺激になっています。事業そのものに対する考え方も、とても参考になっています。

飯田 本当は、もう何社か、こういう企業間連携に共感してくれる人がいて、ゆるやかにコミュニティができてくるといいなと思っています。お互いに壁打ちしたりして、ウィンウィンな形でできると、ビジネスアイデアを持っている人にはすごく良い環境になるはず。今、新規事業開発をするために専門家にヒアリングしようとドアノックしても断られてしまうこともあります。コミュニティみたいなハコがあって、スキルやケイパビリティを持った人たちにアクセスしやすい環境があって、しかもそれが一方通行でなく、お互いに意味のある形にできるのが理想的ではないかと。


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森久 多くの企業が社内起業やアクセラレーションプログラムを手掛けるようになって、ようやく2周目に入ったという状況だと思います。1周目は自分たちでとりあえず教科書にならってやってみた。2周目は、自社の文化や社員の特性、世の中の情勢に応じて独自性を出したくなってくる。だから、他の企業がどうやっているのかリサーチするようになる。TRIBUSにお問い合わせいただくのもその流れかと思いますし、その意味では、企業間のコミュニティ、ネットワークを作るには良いタイミングかもしれませんね。

飯田  我々の連携も面白くなってきていますが、広く見ると2社だけで、やはりまだまだ狭い。いろいろな企業さんを巻き込めたらいいですよね。もちろん、最終的には企業同士連携して事業を立ち上げたりできればいいのかもしれませんが、最初からそれを目的にしてしまうとそれがハードルになってしまう。会議室にいろいろな企業の人を集めて、さあビジネスを一緒にやりましょうと言ってもうまくいかないですよね。協業や共同サービスを起こすには、やはり母数となるゆるいつながりがきっかけとして必要で、まずは、お互いに壁打ちをやるような、関わる人を増やすことが第一歩かなと思います。


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――どんな企業の方々とご一緒したいと思われますか。

森久  TRIBUSはいい意味でゆるいので、本当に話しかけていただくだけで良いです。思いついたら結構なんでもすぐ実行しますので。生煮えでも構わないので、面白いことを一緒にしたいという方はぜひお声がけいただけたらと思います。

飯田  そうですね、オープンマインドで、何かコラボを探している方であれば、誰でもウェルカムです。

山内 オープンマインドはもちろんですし、新規事業の組織設計や運営に於いて何か悩みがある方。まずお互いに手を差し伸べられないかという議論が出来たらいいなと思うので、そういう方々とご一緒したいです。悩みのある方、課題を持っている企業さん。私たちも同じように悩みや課題があるので、接点を持てたらうれしいです。

森久  僕らは、とにかく怒られてもいいからまず1回やってみる。そして自分たちで課題を見出して、修正してまたやってみる。その繰り返しでやってきています。怒られないようにするなら、既存のことをやっているのが一番ですけど、それだと前に進まないですから。この動きを、自社内でやるだけでなく、他の企業さんとも繰り返しできたらと思います。


――最後にお互いにエールをお願いします。

森久  本当に声を掛けていただいてありがとうございます。そして引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

飯田  本当にいつも勉強させてもらってありがたいです。事務局的なこともそうですし、社内を統合的に動かしていく手法なども学びたいと思っています。サポーターズも継続して、一層関係を深めることができたらと思っています。そして、今後具体的な案件をご一緒できるところまでいけたらというのが究極の夢。ぜひ引き続き頑張りましょう。

山内 毎年、事務局の方々がTRIBUSを良くしていこうとしているところが、本当に素晴らしいと思っています。現状に満足せず、常にアップデートしようとしている。私たちも部門内の新規事業公募制度を運営する上で、事務局がそういうマインドでなければそのプログラムは衰退してしまうと感じています。そういうところを学びながら、今後も壁打ちをきっかけにコラボを進められたらうれしく思います。


PHOTOGRAPHS BY  UKYO KOREEDA
TEXT BY TOSHIYUKI TSUCHIYA



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