【Challenger’s Interview】SecureNavi「StarQuest for RICOH」発売への冒険がもたらした新しい景色

取引先から「御社は『星いくつ』ですか」と尋ねられる日が、そう遠くない未来にやってくるかもしれない。経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室が2026年度末の運用開始を目指す「SCS評価制度」(※1)は、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策状況を評価・可視化する仕組みだ。
一方で、対象となる中小企業は「専門知識や人手、予算が足りない」「何から手をつければよいかわからない」といった課題を抱える。そうした声に応えるのが、SecureNaviとリコージャパンが共同開発した「StarQuest for RICOH」だ。「TRIBUS 2025」でユニッジ賞と推しスタートアップ賞を受賞したSecureNaviのCEO井崎氏と小平氏、カタリストを務めたリコージャパン株式会社の磯野氏、染川氏に話を聞いた。

井崎 友博
SecureNavi株式会社 代表取締役CEO
新卒でセキュリティコンサルティング会社に入社し延べ200社以上を支援。2社目のソフトウェア企業でSaaS開発に携わり、2020年に同社を創業。
SecureNavi株式会社:https://secure-navi-inc.jp/

小平 陽亮
SecureNavi株式会社 サプライチェーン事業部 部長
機械系商社、建築資材メーカー、旅行系スタートアップを経て2022年に8人目の社員として入社。2026年1月新設の同事業部長。

磯野 幸一
リコージャパン株式会社 エンタープライズ事業本部 公共事業部 第一営業部 第二担当室

染川 朱美
リコージャパン株式会社 デジタルサービス営業本部 CXセンター センターコンタクト部 ICTグループ (活動時)



「文系のセキュリティ」を支えたい

――まずはSecureNaviの事業について教えてください。

井崎:私たちは「文系のセキュリティの悲報を、テクノロジーでいち早く解決する」というビジョンを掲げています。セキュリティというと、ウイルス対策や脆弱性診断といった技術をイメージされる方が多い。それを私たちは「理系のセキュリティ」と呼びます。一方で、社内規程の管理やリスクアセスメント、内部監査、インシデント対応といった領域も重要です。こちらを私たちは「文系のセキュリティ」と定義しています。

SecureNavi株式会社 代表取締役CEO 井崎 友博氏

この領域は、まだDXの余地がすごく大きいんです。理系のほうは、AIの進化で検知技術などが上がっているのに、文系の領域は今でもWordやExcelが主役だったり、内部監査のやり方も変わっていなかったりします。「文系のセキュリティ」をDXすることは、長い目で見れば日本のセキュリティレベルの向上につながっていくのではないかと考えています。

具体的なサービスとしては、第三者認証の取得支援サービスである「SecureNavi」に注力しています。ISMSやプライバシーマークなどを取得するために、必要なリスク対策を自動で提案したり、タスクを管理したり、審査に必要な文書を自動作成したり。さまざまな機能を通じて、セキュリティマネジメント業務を効率化し、同時に進化させていくというものです。

――起業に至った背景をお聞かせください。

井崎:新卒で入社したのがセキュリティコンサル会社で、延べ200社以上を支援しました。当時から、セキュリティ業務はもっと効率化できるなと思っていたんです。コンサルティングは一社一社に寄り添う素晴らしい仕事です。

ただ、人が動く分どうしても費用がかかる。それがハードルになることに、もどかしさを感じていました。そこで、多くの会社に共通する部分をソフトウェアに任せられれば、もっと多くの会社に届けられるはずだと考えたんです。「SecureNavi」は月額3万円のサービスです。より多くの会社にセキュリティに取り組んでもらいたいという思いは、創業時から変わっていません。

――TRIBUSに応募したきっかけを教えてください。

井崎:TRIBUS自体は人づてに聞いて知りました。調べてみて驚いたのは、リコーさんが取り扱うセキュリティソリューションの数がとても多いことです。

お客様にとっては文系と理系のセキュリティが、両方バランスよく支援されることが重要ですから、理系に強い会社と組めれば価値をお届けできるのではないかという仮説はすでにもっていました。ただ、成功事例はつくれていなかったんです。リコーさんとコラボレーションできたらすごく面白そうだと思ったことが最初のきっかけですね。


――カタリストのお二人が参加された理由もお聞かせください。

磯野:私はずっと大学をお客様として担当してきました。それこそ井崎さんのおっしゃるところの「理系のセキュリティソリューション」についてはよくお見積もりするんですが、文系のことを求められるケースもあるんです。学生が600人ほどの小さな大学だと「対策しないといけないけれど、どうすればよいのか」という相談をいただくこともあります。

リコージャパン株式会社 エンタープライズ事業本部 公共事業部 第一営業部 第二担当室
磯野 幸一氏


経験から話せることもありますが、やはりルールや業界特有のガイドラインなどの専門知識がないと正しい情報をお伝えできない、力不足だと思うことが結構ありました。だからTRIBUS2025の統合ピッチで井崎さんのプレゼンを見て、SecureNaviさんとご一緒するしかないと思ったんです。

染川:私はサービスを売った後の運用でサポートに入る部署にいますので、自分の仕事と関連している、と思ったのが一つ大きな理由でした。それと、井崎さんはプレゼンがとてもお上手なんですよ。質疑応答まで全部完璧にこなされているのを見て、一緒にお仕事したいなと思ったのが決め手ですね。

リコージャパン株式会社 人事・コーポレート本部 業務革新センター ICT・サービス業務部 ICT業務グループ
染川 朱美氏


もう一つ、セキュリティ教育ってたくさんあるんですが、形だけやって「やったことにしている」ことが多いんじゃないかという印象もありました。理解していなくても「教育を受けた」という事実だけが重要視されているような気がしてしまうんです。でもいざというとき、誰か一人の対策がゆるいと、そこから崩れていくんですよね。そういう危機感のようなものにも応えてくれるサービスを、SecureNaviさんは提供しているのかなと思ったんです。

井崎:おっしゃる通り、セキュリティは「儀式」になりやすい領域なんですよね。実際にレベルが上がったかよりも、決められた所作をやったかに目が向きやすい。かつてメールの添付ファイルをZIPで暗号化するのが当たり前だった時期もありましたが、いまは考え方が変わってきています。形式ではなく「なぜそれをやるのか」が問われるように変えていく。そこも私たちの役割の一つだと思っています。

制度をきっかけに、よりよいセキュリティのあり方を目指す

――「SCS評価制度」はちょうどTRIBUS 2025の統合ピッチの段階で固まり始めた制度ですね。

井崎:はい。統合ピッチの時点で、この制度に沿ったサービスをつくりたいという方針は決めていましたし、ピッチでもこれを中心にお話しました。セキュリティ対策を本格化できていない中小企業が取り組むきっかけとして、とても期待していて。実は認証制度は日本人の国民性とも相性がよいと思っているんです。隣の会社がやっていたらやる、という話もよく聞きますよね(笑)。


一方で、伸びしろを残した制度だとも考えています。例えば、基本的にこの制度では、年に1回の自己評価が求められることが想定されています。 いまはテクノロジーを使えばセキュリティの状態をリアルタイムに確認することもできますし、海外にはそれをモニタリングすることが主流になっている国もあります。文系のセキュリティのDXに7年間向き合ってきた立場だからこそ、この制度をきっかけに、よりよいセキュリティのあり方を提案していけるのではないか。そう考えたのが出発点でした。

――採択前からある程度サービスの形があったのでしょうか。

井崎:それが、何もなかったんです。ピッチで使ったスライド、つまり構想しかない状態で「採択後は頑張ってプラットフォームをつくります」と言ってなんとか採択していただきました。そこから毎週の定例でご意見を伺いながら、2カ月ほどでつくっていきました。

小平:井崎が最初、半年ぐらい一人で開発していたんです。社長がここまで開発するのか、と社員が思うくらい自分で手を動かしてつくっていて。AIで開発できるようになったことも大きいですが、井崎の本気度が伝わってきました。

SecureNavi株式会社 サプライチェーン事業部 部長 小平 陽亮氏

磯野:一番驚いたのは、プロダクト化の速さです。リコーで「このソリューションいいね」となっても、1〜2カ月で形ができるって経験がありませんでした。しかも既存サービスの改修で進めるのかと思っていたら、ほぼゼロベースで始めるということだったので、とても驚きました。

井崎:モックを早めにつくって、早々に皆さんに触って試していただけたのはよかったなと思っています。そのモックはプロダクト化するにあたって、一度全部捨ててつくり直すことになったんですが、最初から捨てる覚悟で速度を優先しました。

染川:話に出たことが、1週間後にはもう更新されて出てくるんです。井崎さん、働きすぎなんじゃないかと心配になりましたよ(笑)。でも、定例を重ねるごとに中小企業を助けたいという思いの大きさが伝わってきて、本当に勉強になりました。

カタリストが担う「翻訳」という役割

――TRIBUSの期間中、約半年で実際にサービス化しましたが、どんな苦労がありましたか。

磯野:途中からは誰にどこで話をしてサービス化を進めていくか、お客様にご提供するための承認を得るかという調整が中心でした。実は、こんなにスムーズに新しいサービスの話が進むんだと、私自身が驚いたくらいです。時流に即したご提案だったというのと、実際にモノができていたことが大きかったのだと思います。

染川:リアルな話ですが、大企業では社内のネゴシエイトってすごく大事なんです。関係者を集めて勉強会をするときも、TRIBUSのコンセプトや立ち位置に加えて、いかにSecureNaviさんがTRIBUSで評価されているかという話から始めるなど、ストーリーの組み立て方はたくさん助言させていただきました。


磯野:年末にあった重要なプレゼンの場は、相当準備しましたよね。それまではSecureNaviさんの単独サービスを代理販売する形にするか、リコージャパンのソリューションとして売るかで意見が分かれていたんです。そのプレゼン以降に「リコージャパンのソリューション」にすることが固まりました。「StarQuest for RICOH」として、一気に動き出したポイントだったと思います。

今回のプロジェクトを通してあらためて思ったのは、リコーグループの文化とSecureNaviさん、つまりスタートアップの文化、この間の翻訳が必要だということです。うまく伝わっていないなと思うところは、できるだけ翻訳して伝わりやすくするよう心がけていました。

井崎:それは私もすごく感じていて。今まで大企業で働いたことがなく、正直「稟議プロセスって何ですか」という世界の人間なので、お二人の存在に何度も救われました。本当にカタリストとして媒介してくださっていた、という感覚があります。

――PoCとしてはどんなことに取り組まれたのでしょうか。

小平:10社ほどの会社さんに実際に導入していただきました。とくに兵庫支社、岡山支社の皆さんにご協力いただいて、クライアントの会社さんにおつなぎいただきました。普段の私たちではお会いできないような規模の会社さんにもご協力いただけたので、本当にありがたかったです。

井崎:PoCがいきなり10社集まるって、私たちのリソースからすると考えられないんです。Web経由でIT企業を中心にご発注いただくことが多かったので、今までアプローチできていないところに届けられたという感覚があります。


――営業のスタイルも、ずいぶん違ったのではないですか。

井崎:実は「物を売るとはどういうことなのか」というのが一番の学びでした。まず驚いたのは、ある展示イベントの際に「1社ずつ時間をかけて、30分を目安にしっかり話しましょう」と言われたことですね。私たちは逆で、例えば展示会の出展に数百万払っているとしたら、1社あたり5分ほどの説明に収めていかに回すか、という世界で生きてきたんです。でも30分話すと、当然のことですが、お客様がなぜ興味をおもちなのかという背景も含めて理解できるんですよね。

そして驚いたのは、リコージャパンさんの営業の方々の理解の深さです。何なら、うちの営業よりもSCS評価制度について話せるんですよ。私たちが同行していても、担当営業の方が全部説明してくださる。専門的な質問が来たので経産省の資料を引用して答えようと準備していたら、担当営業の方が先に全部回答されてしまったこともありました(笑)。お客様の役に立つために、徹底的にキャッチアップしている。本当にすごいと思いました。

あまりに衝撃的だったので、「なんでそんなに知識が身についているんですか? 」と伺ったら、こういう研修制度があって、このテストで何点取れば評価が上がって、と仕組み化されていると教えてくださって。大企業たる所以を社員さんから直接伺えて、感動したのを覚えています。早速、経営にも活かそうと思っています。


ダブル受賞、そして「StarQuest for RICOH」発売へ

――PoCを経て、Investor’s Dayでダブル受賞を果たされましたね。当時を振り返っていただけますか。

染川:何よりまず驚いたのが、当日井崎さんの右手に包帯が巻かれていたんです(笑)。限界まで仕事をされて、神経を痛めてしまったんですね。最終ピッチは左手だけでスライドを操作していたんです。それでも完璧だったんですよ。約8分の持ち時間で、時間が来たら音を鳴らすんですけど、鳴らそうとしたところで終わった。裏ではよほど練習されたはずです。

私は不慣れながら、オープニング動画を制作して臨みました。そんなものつくったことがなかったのですが、調べてCanvaで取り組んでみたんです。やってみると4時間くらいでつくれました。井崎さんの開発があんなにスピーディだった理由が少しわかったんです。何事も手を動かすことで得られるものですね。


井崎:あの動画、とても感動しました!プレゼン前だったのにうるっときてしまって(笑)。 当日は会場の方だけではなく、リコーグループの皆さんが見てくださっていると事前に伺っていたので、「このサービスを売りたい」と思ってもらえるようなプレゼンにしようと目標を定めました。結果として、ユニッジ賞と推しスタートアップ賞のダブル受賞をさせていただきました。 推しスタートアップ賞の背景には、磯野さんと染川さんが草の根活動もしてくださったそうで、本当にありがとうございます。

染川:外部審査員の土井さん(株式会社ユニッジ Co-CEO)が「9月のピッチで言っていたことを全部実現させました。さすがです」とおっしゃっていたことも覚えています。よく見てくださっているなと思いました。

――最後に、TRIBUSの魅力をお聞かせください。

井崎:一つは、PoCのように営業力から学べることが本当に多いということですね。もう一つは、リコーさんの歴史や創業者の市村さん、山下会長のお考えもとても勉強になりました。「儲ける経営ではなく、儲かる経営」という市村さんの言葉は、今の私の経営スローガンにもなっています。


そして、よい意味で想定外だったのは、リコーグループの皆さんが想像以上に協力してくれるということ。カタリストのお二人はもちろんですが、TRIBUSの取り組みだと言えば社内にすぐ通じるし、親切に接していただける。大企業のリソースを活用できるというその言葉は本当で、実際に活用できるよう誘導までしていただけることに、とても驚きました。

無事、今年の6月に「StarQuest for RICOH」の提供を開始できました。こうして実際に皆さんとの取り組みを形にできるのも、TRIBUSのすごさだと思います。



(※1)SCS評価制度=「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」。経済産業省・内閣官房国家サイバー統括室が2026年3月27日に「制度構築方針」を公表。★3・★4は2026年度末頃の開始を目指す。出典:経済産業省ニュースリリース(2026年3月27日)


PHOTOGRAPHS BY YUKA IKENOYA (YUKAI)
TEXT BY MARIE SUZUKI



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