【Challenger’s Interview】経済性こそ、脱炭素への近道 eMotion Fleetがリコーと踏み出した営業車のEV化

白木 秀司 eMotion Fleet株式会社 代表取締役社長。
MBA取得後、三菱ふそうに入社。アリックスパートナーズ、日産自動車を経て、2020年にドイツのEVスタートアップ・StreetScooterの日本法人社長に就任。合計2万台以上の規模でEV導入プロジェクトを手がけた。2023年9月、共同創業者のデニス・イリッチ氏らとともにeMotion Fleet株式会社を設立。
林 篤司リコーエレメックス株式会社
池田 政義リコージャパン株式会社 岡山支社
車・充電器・ソフトの三位一体で経済性と脱炭素の両立へ
――まずはeMotion Fleetの事業について教えてください。
白木:弊社のミッションは「経済的なグリーンモビリティを現場から実現する」ことです。具体的には、モノとヒトを運ぶ事業者に向けて、商用EVの導入から運用までをワンストップでご支援しています。
大手企業を中心に脱炭素化に向けた取り組みは活発化していますが、EVとなると車両価格がまだ高く、充電設備を準備する必要もあります。効率的に充電できるか、コストパフォーマンスは下がっていないかなど、気になるポイントがたくさんある。つまり、導入後を見据えた仕組み全体を考えなければなりません。中小企業ならなおさら後回しになってしまいます。
そもそも国内における普通乗用車のEV普及率は3%未満。世界におけるEVの販売比率は25%で、中国では53%、欧州では27%、米国では10%。世界に比べても日本はかなり低い水準で、導入から運用までのノウハウが圧倒的に足りていないというのが実態です。
――そのようななかで、なぜ商用EVの普及に取り組まれているのでしょうか。
白木:私たちが大事にしているのは、経済合理性です。物流・交通事業者の業界は、98%が保有台数100台未満の中堅・中小事業者。もちろん脱炭素化も重要なことですが、「環境のため」という一本足では、なかなか中小企業は動けません。「経済性と脱炭素をいかに両立させるか」。これが私たちの追求するテーマであり「日本発世界へ、モビリティのデジタル・グリーン変革をリードする」というビジョンの根幹を成すものです。
前職の経験から、車・充電器・ソフトウェアを一体となって導入できるようにすることで、導入と運用のハードルが下げられること、そしてそれが安定稼働と経済性の実現につながることを知っています。この三位一体のソリューションは日本にも必ず必要になる。EVを導入すればトータルコストが安くなるということを理解していただければ、日本でも商用EVが普及する。そう確信して、3年前にeMotion Fleetを立ち上げました。

――具体的に、どのように経済性と脱炭素の両立を実現されているのでしょうか。
白木:経済性を実現させられることを証明するために、まず欠かせないのがデータの取得と分析です。弊社では、車載器「Geotab」を通して燃料消費のデータから、運転に関するデータ、EVであれば充電残量、バッテリーの劣化状況まで、かなり詳細なデータを取得しています。「ここまでデータが取れるのか」というのは、よく感心していただくポイントです。
まずはこの「Geotab」をガソリン車も含めた既存の商用車に導入いただきます。すると、車の稼働率や運転状況から、最適な台数や運転方法など経済性を上げるためのポイントが見えてきます。それらを改善することで削減できたコストを、EVの導入に回していただく。
導入にあたっては、車両だけでなく充電器や運用の仕組みを含めて弊社がサポートします。運用開始後は、EVの導入によって改善されたコストを可視化できるので、さらなる導入の拡大をご検討いただける。
私たちは必ずしもバッテリーEVだけにこだわっているわけではありません。最も経済的でグリーンな手段を選んでいただきたい。だからこそ「Geotab」は動力源を選ばずに使えますし、自動車・充電器どちらもさまざまなメーカーさんのものを扱っています。このマルチブランド化が、BtoBのお客様にとって使い勝手のよさにつながると考えています。
それから、これからさらに注目されると思っているのが「企業価値の向上」です。大手の荷主や物流事業者には、脱炭素化に取り組まれている企業も多い。GX(グリーン・トランスフォーメーション)にも積極的に取り組んでいかないと、将来的に「選ばれない企業」になってしまうという危機感を持たれている経営者もいらっしゃいます。弊社のサービスがそうした課題に応え、企業価値を向上させていく一助になる可能性も感じています。
脱炭素を牽引するリコーの募集テーマに共鳴
――TRIBUS2025に応募された決め手は何だったのでしょうか。
白木:もともとリコーさんは、脱炭素経営においてベンチマークとなる企業だとずっと思っていました。弊社も加盟している日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)では、リコーの会長さんが共同代表を務めるほどですから。いつかご一緒できればと考えていたところに、TRIBUS2025の募集テーマとして、まさに「中小事業者のカーボンニュートラル支援」が掲げられていた。「これしかない」と、すぐに提案書をつくって応募しました。
応募にあたってホームページや事務局のインタビュー動画を拝見するなかで、採択される前から「かなり伴走していただけそうだ」という感覚がありました。リコーさんが7000台規模の社有車を電動化していくというニュースも以前から知っていましたから、そのアセットを活用した実証ができるのではないかという期待感もありましたね。
――林さん、池田さんはカタリストとして参加されました。きっかけをお聞かせください。
林:私はリコーエレメックスで車載リチウムバッテリーの設備設計をしています。カタリスト自体は、2019年にTRIBUSの社内起業チームとして活動していたので存在は知っていて、「やったことがないからやってみよう」と応募したんです。eMotion Fleetさんが参加されると知って担当を希望しました。仕事柄、EVが普及してくれるといいなと思っていたので。

実際に統合ピッチを見て、白木さんはすごい経営者だな、と思ったことを覚えています。特に感じたのは、ユーザーに寄り添う姿勢です。EVを普及させるだけでなく、「使える形」としてユーザーに届けたいという思いがとても強く伝わってきた。私自身、EVがなかなか浸透していかない歯がゆさも感じていたので、白木さんのチームならそれを実装可能な形にできるんじゃないか、という期待もありましたね。
池田:私はリコージャパンの岡山支社に勤務しているんですが、私の上司も含めて、このTRIBUSにチャレンジしてみようという話になりまして。2025年度には、岡山支社から3名が応募しました。
私は新しいものや人がやらないことに惹かれるんです(笑)。PTA会長を引き受けたり、趣味でトライアスロンをやったり。ちょうどGX事業部を兼務することになったタイミングだったこともあり、社会全体が脱炭素経営に向かっている今、自分の提案の幅も広げられそうだと考えてeMotion Fleetさんを支援したいと希望しました。
「営業車EV」の導入検証と営業で見えたデータの真価
――TRIBUSの期間中は、具体的にどのような取り組みを進めたのでしょうか。
白木:大きく3つあります。一つ目は、リコーさんの社有車、いわゆる営業車を使った実証実験。二つ目は、リコージャパンさんのお客様への共同提案。そして三つ目が、リコーさんのサプライヤーへの働きかけです。

統合ピッチの時点で、リコーさんの社有車というアセットを活用して実証を行い、その結果をお客様や取引先にも広げていく、という構想をお伝えしていたので、採択後はそれを前提にプロジェクトが動き出しました。
――まず一つ目、所沢営業所での実証はどのように進められたのですか。
池田:この実証はTRIBUSの事業テーマを提出していたGX事業部のリーダーが中心となって動きました。EVを含む社有車10台に「Geotab」を取り付けてデータを集めたのですが、営業所長とのコミュニケーションを通して、現場から理解を得たうえで進められたのが大きなポイントだったと思います。
白木:実は弊社にとって、いわゆる営業車の実証はこれが初めてだったんです。それまでは物流やバスなど、モノとヒトを運ぶことをメインにする事業者との実績が中心でした。営業車でどんな結果が出せるのかは未知数だったのですが、結果として経済性の効果をしっかりと発揮することができました。
――具体的には、どのような成果が見えてきたのでしょうか。
白木:得られたのは大きく四つの成果です。
・安全スコアの改善による事故費・保険料の削減
・安全運転による燃費の改善
・最適台数の可視化
・上記の削減分の予算でEV化を進めた場合のコストの試算
現在の車両数だと同時稼働は最大でも約80%にとどまることもわかったので、台数を減らしてEV車両を増やすのも有効だという発見がありました。四点目では、営業車をすべてEV化した場合、燃料代が約45%、CO2排出量が約54%削減できるという試算も得られています。
林:正直、現場からは取り付けの煩わしさへの不満や、監視されるのではという不安の声があがるかと思っていたのですが、実際には少なかったのが意外でした。「詳細なデータが可視化されて便利」「お客さんにもデータを見せられて話のネタになった」という感想が多かったです。
3〜4週間の実証中、白木さんが毎週レポートを共有してくださって、それをみた所長が営業に運転の改善を呼びかける。すると、安全運転のデータが目に見えて改善していくんです。こんなにすぐに変わるのかと驚きました。
――二つ目の、リコージャパンの顧客への共同提案はいかがでしたか。
池田:主に私が岡山で担当しているお客様にeMotion Fleetさんのサービスを提案しました。これをきっかけに新しい担当者に会えたり、新しい情報をキャッチできたり。自分の営業にもかなり活用させていただきましたね。3カ月の間に7〜8社にアプローチでき、そのうち北関東の1社とは今まさに相談を進められていて、嬉しく思います。

白木:リコーさんが長年築いてこられた関係があってこそ、お会いできた企業様ばかりでした。リコーさんに声をかけていただけたからこそ「じゃあ聞いてみよう」と思っていただける。大企業のネットワークやアセットの強さを、改めて感じました。
商談が進んでいるのは、運送事業も手がけられており、ESG経営にも力を入れられている企業様です。私たちのサービスが資金調達や融資の評価にもつながるのではとお考えいただいたということで、先ほども話に上がった企業価値の向上につながる文脈でもあり、非常に大きな収穫になりました。
――三つ目の、リコーのサプライヤーへの働きかけはどうでしたか。
白木:これは林さんにご尽力いただきました。リコーさんは大手の荷主でもあることから、物流事業者のCO2削減、いわゆるScope3の脱炭素化を弊社のソリューションで支援できないか、と働きかけたんです。進めてみると、協力先のさらに先のサプライヤーまでデータの取得に協力してもらう必要があり、かなりハードルが高いことがわかりました。
林:なかなか関係者を巻き込めず、うまく支援しきれなかったのがとても心残りです…。ここを乗り越えられたら、もっといい成果が出せたのかなと思います。
白木:いえ、こうした課題が見えるのも、実証実験ならではの収穫だったと考えています。
総合力が強いTRIBUS「意思があれば道は拓ける」
――「TRIBUS Investors Day 2025」では審査員特別賞を受賞されました。どのような点が評価されたのでしょうか。
白木:審査員のおひとりがおっしゃっていたのは、スタートアップにとって最大のテーマは「いかにスケールするか」だということでした。自社だけでは限界が来る。だからこそ大企業のアセットやチャネルを活用してソリューションを普及させる。それがスタートアップの勝ち筋になる、と。今回3カ月という期間でまさにそれに取り組ませていただいたと思っていますので、その点を評価いただいたのではないかと考えています。
――多くのアクセラレータープログラムを見られてきたなかで、TRIBUSの特徴はどこにあると思われましたか。
白木:一言で言うと「すごい」。これに尽きます。仕組みもカタリストの皆さんの関与の度合いも、他社を凌駕しています。まず驚いたのが、統合ピッチやInvestors Day当日にトップの経営陣が終日出席されて、一つひとつのプレゼンを聞いて審査していることです。そこに新規事業への本気度を感じました。
プログラムが始まってからの動きも本当に早くて、皆さん協力的でした。チーム外の方々も、本当に前向きに協力してくださる。ほかの企業だと他部門が非協力的なこともままありますが、リコーさんではこれができてしまう。副業20%という制度も機能してのことだと思いますが、カタリストの方々も主体的に動いてくださる。事務局からのサポートや広報もプロ意識が高い。この総合力をとってみても、他にないプログラムだと思います。だから私は勝手に、いろいろな企業にTRIBUSの素晴らしさをPRしているんですよ(笑)。

――カタリストのお二人はどんな学びがありましたか。
林:私は主に会議のファシリテーションをしていたのですが、さまざまなステークホルダーがいる状況が普段はなかなかない機会なので、とても貴重でしたし、今後の業務にも活かせると思っています。白木さんもおっしゃっていましたが、社内に協力をお願いする場面で、皆さんすぐ前向きに協力してくれたことも、よい再発見でした。今後はもっと周りを頼っていこうとも思えました。
池田:私にとっては、新しいコミュニティに入れたのが大きかったです。どこかでつまずいたとき、相談できる先を増やせたという感覚です。正直、グループ内でTRIBUSを知らない社員はまだ多いと思います。私も上司がいなければ知らなかったかもしれません。今は私から岡山支社の仲間にも参加を勧めています。視野も広がりますし、20%の副業といっても、そこまで負荷を感じることはなかった。せっかくこうした制度があるのだから、チャレンジしてみるべきだと思いますね。
――あらためてTRIBUSを振り返って、いかがでしょうか。応募を検討しているスタートアップへのメッセージもお聞かせください。
白木:一番の収穫は、リコーさんとこういう形でお付き合いできたという事実です。このファクトは弊社にとって大きな自信になりますし、ほかの事業者さんに「あのリコーさんとの事例があるんです」とお伝えすると、反応がまるで違う。スタートアップにとって、大手企業との実績は何よりの武器になります。
応募を検討されているスタートアップには、「とにかくすぐ応募しましょう」と伝えたいです(笑)。悔いはありませんから。少しカッコつけて言うと、スタートアップも起業家も、“Where there is a will, there is a way”。意思あるところに道あり、なんですよね。周りが「どうせEVの未来なんか来ない」と批判しても、自分が「そこにあるんだ」と信じ抜けば、おのずと未来は開けていく。TRIBUSはそれを実現に一歩近づけてくれるプログラムだと思います。
PHOTOGRAPHS BY YUKA IKENOYA (YUKAI) TEXT BY MARIE SUZUKI