【Challenger’s Interview】3Dプリンター×電機——LIFE PARTSが事業譲渡先・明電舎で育む革新

RFG Challenge(現在のTRIBUSの前身となるプログラム)に採択されたリコーの社内スタートアップ「LIFE PARTS(旧 WEeeT-CAM)」が、2025年4月にリコーから明電舎へ事業譲渡された。3Dプリンター技術を活用した小水力発電事業を展開してきたこのチームは、令和6年度新エネ大賞で資源エネルギー庁長官賞を受賞するなど、着実に成果を上げてきた。新たなステージへと歩みを進めるなか、明電舎・沼津事業所で取材に答えてくれたのはLIFE PARTSを率いる斎藤啓、技師の三木智晴、清水孝幸、そして明電舎でイノベーション活動を推進する坂野仁美氏だ。この4名に、事業譲渡に至る経緯と今後の展望について話を聞いた。


斎藤 啓
明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室長

清水 孝幸
明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室 技師

三木 智晴
明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室 技師

坂野 仁美
明電舎 経営企画本部 事業開発部長 兼 サステナビリティ推進部 地域エネルギーソリューションプロジェクト員



電圧の高い領域への3Dプリンター活用に挑む

——まずは皆さんのこれまでのキャリアと、LIFE PARTSでの役割を教えてください。

斎藤 私はリコー時代にRFG Challenge(現TRIBUS)に採択された「WEeeT-CAM(ウィットカム)」でリーダーを務めてきました。3Dプリンターで成形した水車の羽を用いた装置を使って少ない水力で発電する「ピコ水力発電システム」を開発し、2020年頃からはこれを軸に新興国の電力不足問題にも取り組んできました(過去の記事はこちら)。

2021年度には国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」にも採択されるなど、一定の成果を上げることができました。次の段階に進もうと考えていたところで、TRIBUSの活動期限を迎えることもあり、事業譲渡というかたちでリコーから明電舎に入らせていただくことになりました。現在は研究開発本部で「LIFE PARTS(ライフパーツ)」事業として3Dピコ水力発電事業の更なる発展と、明電舎社内への3Dプリンター技術の理解促進と活用に取り組んでいます。

明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室長 斎藤 啓 氏

三木 私はもともとリコーで材料開発をしていましたが、LIFE PARTSの存在を知り、ここならより自分の技術を活かせて、かつ環境にも貢献する仕事ができると思い、希望を出して異動しました。明電舎では研究開発本部として、かなりアグレッシブにいろいろなことをやらせていただける環境にいます。自分のやりたいことを通して会社と社会の両方に貢献することができる、やりがいのある場だと感じています。

明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室 技師 三木 智晴 氏

清水 私もリコー出身で、もともとインクジェットのインクの開発をしていました。一方で、リコーに入社してからずっと3Dの分野でやりたいという思いがあったんです。2020年頃に斎藤さんに出会い、ちょうど3D造形用の樹脂開発をするということで、自分のやりたいことと合致したので、チームに参加しました。明電舎に来てからも同じように樹脂の開発を担当しています。

明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室 技師 清水 孝幸氏 (遠隔参加)

坂野 私は新卒で2008年に明電舎に入社して、研究所に配属されました。入社3年目に開発統括部という企画を担当する部署に移動して、研究開発の成果を事業化させるということを9年ほど担当していました。2019年からは事業開発部に異動して、2020年に「MASTプロジェクト(※)」という社内のボトムアップ型のアイデアを事業にする活動を立ち上げました。現在はその事務局を通してLIFE PARTSの皆さんの活動をサポートしています。

明電舎 経営企画本部 事業開発部長 兼 サステナビリティ推進部 地域エネルギーソリューションプロジェクト員 坂野 仁美 氏

※M(明電舎の)A(明日を)S(創造する)T(考える)という頭文字をとっており「明電舎の“明日”、10年後を創造する、考える」プロジェクト。


——LIFE PARTSの現在の活動について教えてください。

斎藤 まず、明電舎は電力インフラの会社で、特に電圧が非常に高い領域に専門性がある会社です。電圧が高い領域と3Dプリンターの融合というのは、世界を見てもなかなか類を見ない領域なんです。加えて、明電舎の子会社であるイームル工業とも緊密に連携しています。彼らは80年間、水力発電をやってきた会社です。

私たちはこうした連携を通して、社内でも使われる材料、そしてそれらを活用した発電の仕組みをつくることを目指しています。具体的には、開発した水力発電装置の発電量をより大きくしたり、コストを下げて水車を普及させたりというような可能性の広がりを想定しています。

これまでフィリピン、欧州、米国などで実装してきましたが、例えばフィリピンでは当初の農業支援という文脈よりも、3Dプリンターを工業的にどう活用するかという、より規模の大きい活用の相談が増えてきています。なのでこうした取り組みは今後さらに高まっていくニーズに応えるものだと考えています。


三木 こうした新たな活用方法については、明電舎に入って電気という分野に触れることで発展させていける可能性が高まると考えています。事業譲渡が決まってからまだ1年も経っていませんが、自分たちがリコーにいた時には触れられていなかった領域まで視野を広げられているという感覚があります。現場の方々に実際の業務プロセスや課題を教えてもらうことで、3Dプリンターの可能性をこれまでとは違う角度から捉え直したり、活用の幅を広げられないか模索したりするのはとても大変ですが、刺激的で楽しいですね


——あらためて、明電舎への事業譲渡に至るまでの経緯を教えてください。

斎藤 大きなきっかけは2023年に完了した国土交通省の下水道応用プロジェクトでした(参考 「国土交通省の下水道応用研究にて、3Dプリンターを活用したマイクロ水力発電の検討を実施」)。このプロジェクトではマイクロ水力発電専門会社であるシーベルと金沢工業大学と連携したのですが、これが協業の実績となり、イームル工業の社長様等に注目いただいたことが始まりだと思っています。

2025年1月に受賞した「令和6年度新エネ大賞 資源エネルギー庁長官賞」も、大きなインパクトだったと感じています。それまでもJICAでの採択など、認知度が高まるきっかけはいくつかありました。これらの小さな実績をコツコツと積み上げることでみんなが応援してくれて、大きな結果につながっていったという感覚です。

清水 私も2020年頃から携わってきましたが、やはり新エネ大賞での受賞は一つの大きな評価をいただいた出来事で、「やってきたことが報われるんだ」という実感が湧いたタイミングでしたね。リコーの社内でやっていくという選択肢もあったと思いますが、次のステージに進んでいくという意味でも、社外に出てやってみようという話になったと記憶しています。個人的にも、良いタイミングと流れだったなと感じています。

坂野 明電舎側としては、もともと3Dプリンターには注目していたんですが、材料や化学の専門家が少ないという理由からノウハウが取り入れられず、本腰を入れられない状況が続いていました。そんななかで斎藤さんからお話をいただいて。単純に事業譲渡でノウハウが取り入れられるというだけじゃなくて、TRIBUSという制度のなかから生まれてきた事業であるというところにも大きな価値を感じたんです。

自分がやりたいことを新規事業として立ち上げて、それが形になって、「LIFE PARTS」としてリコーから社外へ出てくる。そんなチームが明電舎に入ってくれば「MASTプロジェクト」にも新しい風が吹くんじゃないかという期待もありました。


——明電舎に移って、LIFE PARTSにはどのような変化がありましたか?

斎藤 研究開発に対する寛容さはリコーと似ていて、新規事業としてもMASTプロジェクトとして坂野さんが築いてくれた土壌があるので、よい意味であまり考え方を変えずに挑戦できていると思います。

ただ、投資をしてくださるということは将来性を期待されているということなので、そこに貢献することを強く意識するようになりました。その点においては明電舎が昔からやってきた領域との掛け合わせが何より重要なので、その領域に入り込み理解しあう事で、更に伸ばしていける領域の見極めや、アプローチ方法を具現化できると思っています。段階としてはまさにダッシュする直前まで来ているように感じています。

清水 私は正直、最初は不安の方が大きかったです。リコーでやってきたことが明電舎でできるのかという不安です。でも、お話を聞いてみると研究開発に対しては非常に広い視点をもたれていて、いろいろな取り組みを温かい目で見てもらえる。加えて3Dプリンター技術に対する期待は大きいので、今では頑張っていかなきゃという思いが強くなっています。

個人としても、元々の業務がインクをつくってどういうものに使うかを検討することだったので、水力発電以外にもどんなことが開発できるのか、その幅の広がりに興味があって。電機メーカーという今までやったことがなかった領域にトライできているので、やりがいをもって取り組んでいます。


技術者に必要な「100%ではないモノを出す勇気」

——事業譲渡にあたって、明電舎側で工夫されたことはありますか?

坂野 やりたいと言ってもらったことに「ダメ」とは言わないようにしています。まずはそれをやるにはどうしたらいいかを考えて、なんとかやれるようにするお手伝いをするように働きかけているんです。

例えば、明電舎では、お客様からお金をいただく案件には、必ず営業担当者と組織が存在します。しかし、新規事業の場合、営業担当と組織が存在しないこともあり、お客様からお金をいただくスキームがありませんでした。

それではLIFE PARTS事業も含めて新規事業はなかなか進捗していかないので、社内で調整して新規事業としてきちんと売上が上げられるような制度を設けました。最初は社内から疑問の声もあがったんですが、徐々にMASTプロジェクト内のさまざまなテーマで活用されるようになって、受け入れられていきましたね。


斎藤 これまでの研究開発だと自社内で開発を完結させて完成したものを世に出して売上につなげる、というやり方だったと思うので、疑問に思うのもわかります。TRIBUSでよかったことの一つとして、事業化前の段階で、お客さんから未完成のものでも、我々が考えている基準より下でも、対価を通じて、ソリューションがほしいという声をもらうようにするところだったと思っています。これが、大きな空振りにならない開発につなげるコツですよね。

三木 それは私もTRIBUSで実感しました。構想段階で「いいね」と言ってくれる人がいて、実際に製品化したりしても、いざ買ってもらおうとすると躊躇されたりストップがかかったりするんですよね。そうならないためにも、実際にお金を出してでも欲しいと言ってもらえるところまでパートナーを組んで本気でソリューションを仕上げていくというのが、事業化できるかどうかの一つのフィルターになっていると思います。初期の段階でそうしたパートナーを組むというのは重要ですよね。

明電舎 研究開発本部 3D造形事業推進室 技師 三木 智晴 氏

坂野 明電舎では完成したものでないと売っちゃいけないという考えが根強かったんです。インフラを支える会社なので、中途半端なものは出せない。試作の段階でお客さんの前に出す勇気のある人がいなかった。でも最近、展示会に出したりメディアの取材を受けたりという機会が出てきたことで、やっと社内が変わってきています。斎藤さんからいろんな話を聞いた社員も増えてきて、そうしたアプローチに寛容になってきています。


——TRIBUSの経験が明電舎でも活かせているんですね。その他に気づきはありましたか?

斎藤 以前は私も会社の一社員という立場だったので、上の人の意向だけを成立させる事がミッションだという傾向がありました。でも今は自分達のことばかりではなくて、経営目線で考えられるようになったと思います。綺麗なストーリー作りではなく、現実路線でどうするか、どうしても戦略上戦わなければいけない場合は、身内や関係先でも当然戦います。こうした考え方が生まれたのはTRIBUSを経てからですね。技術者が戦略ではなくリアルな経営に携わるという機会は、TRIBUSという場がないと生まれなかったと思います。長期的な技術戦略書は書いても事業計画書なんて書くことはほぼなかったので。

もう一つTRIBUSを通して気づいたことは、モノを勇気をもって出すことの大切さですね。一番最初に出した水車は「どこが新しいねん」と自分でもツッコミを入れるぐらいのものだったんですが(笑)、発表後に周囲の皆や役員方から早く成果を出せと無言のプレッシャーを受けていました。プロダクトそのものの完成度よりも、それを活用して成果を生み出すことが重要だということに気づかせたかったんだと思います。100%完成されたものじゃなくても世の中に初めてのプロダクトを出すことが重要で、それは技術者全員が今の日本で特に求められている力だと思います。

坂野 聞けば聞くほど、TRIBUSと明電舎のMASTプロジェクト、考え方は似ているんだと思います。私自身、若手の頃は自分の考えが上に通らないことにジレンマを抱えていました。それを変えるためにはどうすればいいのか考え続けて、今このポジションにいます。そこでやはり思うことは、小さな成果をコツコツと積み上げること、目に見える形にしていくことが重要だということです。外に出ていくことで、社内が変わっていく。

斎藤 目に見えるということは本当に大事です。私たちが沼津営業所にこの見栄えの良いトレーラーハウスを入って半年ほどで設けさせていただいたのも、LIFE PARTSという新しいチームが入ったこと、そしてスピード感を持って活動していること、変化というプラスの価値を皆さんに日々実感してもらいたいという思いがあったからです。

取材を行ったトレーラーハウス。普段はLIFE PARTSの事務所として使用している。左端:同室 新入社員の本田 寛陽も交えて。


before:雑草が茂り、外からの見栄えも悪い。今後は雑草処理費用も発生しなくなる。


——LIFE PARTSが明電舎社内にどんな影響を与えていると感じますか?

坂野 まさに変化が出始めている段階だと思っています。実際に最近、「下水王国」というゲームが社内のアイデアコンテストで賞を取って、試作の段階で展示会に出したら、メディアに取り上げられたんです。完成しないと世に出しちゃいけないという考えが、少しずつ変わってきていると感じます。

斎藤 それは嬉しいです。多くの日本の会社は3Dプリンターを使いたいけれど要求仕様のハードルが高くて手が出せない状況なのだと思います。そこに僕らみたいなのが来ることで、その壁を無理やり壊して「これは使えるので使いましょう」とどんどん旗を振っていける。これは極端に信頼関係を作れる事業譲渡じゃないとできないことだと思います。

まだまだ3Dプリンターは完全ではないです。デメリットもメリットも多い。新規事業をやっているとメリットばかりが見えてきますが、その領域の専門家にとってはデメリットが大きく目立つ。それらをいかに両立させるかというところがミソで、それはリコーでも長年苦労してきたところです。明電舎でも同じように、お互いに挑戦しあいながら新しい領域を見つけられると思っています。

※開発中プロダクトのため、水車にぼかし処理を入れています。


3Dプリンターの技術で日本の製造業に再び革新を

——今後の展望を教えてください。

斎藤 明電舎社内では、3Dプリンターを使いこなせる状態にしていきたいですね。どんどん新しいものにチャレンジして、製造業にも革新を起こしていけたらと思います。実際に、国内のある会社では、1製品に3Dプリンター製のパーツを必ず入れるようにする会社もあります。

LIFE PARTS事業については、これまでの延長線上だけではなく角度を変えた展開も考えられると思っています。明電舎が得意な電気の領域と絡めて、より実用的なものにしていくことも考えられますし、加速の仕方という点で変化をつけていくことも考えられます。TRIBUSではとにかくスピードが求められた印象ですが、明電舎は120年の歴史がある会社。インフラの領域ということもあり慎重で確実な方々がより多いので、「両利きの経営」を意識して、従来の事業を大事にしながら新規事業もやるということに挑戦できればと思っています。

社内や事業をよくすることはもちろんですが、私の頭にあるのは日本の製造業全体のことです。昨年11月、清水さんとは米国の国際会議、三木さんとはドイツの展示会に行ってきました。世界では3Dプリンターを量産レベルで使いこなしています。その差と危機感を2人にも肌で感じてもらうことができたと思います。ヨーロッパやアメリカの技術革新を目の当たりにすると、日本が遅れはじめていると感じるんです。実際に見知っている日本企業が製造業から撤退していくのを見ると、なんとかしないとまずいと思います。私たちの取り組みを通して、製造業に革新を起こさないといけない。そんな思いで日々の業務に取り組んでいます。


三木 斎藤さんの影響もあり、製造業への危機感というのは僕のなかでも大きくなってきています。個人的な思いとしても、これまで触れてきた材料の知識と、3Dの技術、そして明電舎の電気の可能性を掛け合わせて、イノベーションを起こすようなものをつくりたいと考えています。

既存事業は重要ですが、いつか既存だけで成り立たなくなる時期が来るかもしれない。リコーにも明電舎にもそうした共通の危機感があります。その課題に対して、実際に事業の領域を広げることで解決策をもたらすのが僕たちの一つの使命です。3D技術を活用して会社全体の技術をアップデートできるようなところを意識して取り組んでいきたいです。

清水 明電舎に来てから、いろいろな造形依頼を受けていて。やはり皆さん「こういうものが欲しい」「こういう材料が欲しい」という要望があるんです。それは今の事業をよくしようと思っての要望だと思うので、すべて受け入れられるような技術開発をしていきたいと思っています。

ただ、まずは社内の方に、3D造形について深く知ってもらう、理解してもらうということが第一歩だと思っていて。そこまで浸透してから、必要な造形をしていく、販売にもつなげていくという流れを想定しています。電機業界で活用できるようになれば、他の業界や領域にも広げていける自信につながると思っています。そういう意味でも、明電舎という国内の長い歴史をもつ電機メーカーで、一から電機について学んで実装していけるという恵まれた環境に身を置いている。それを実感しながら、日々の業務に取り組みたいと思っています。

坂野 私の仕事は、斎藤さんみたいな人を社内に増やすことです。自分の思いをもって周りを巻き込む人が社内に増えてくると、自主性が生まれて、自然とモチベーションも上がってくるし、文化も変わってくると思っています。

アプローチとしても、自分たちの技術やノウハウを起点としたプロダクトアウト型の新規事業だけでなく、LIFE PARTSのようなマーケットインの発想、社会課題としてこういうのが必要だからやるんだ、という考え方の事業が生まれてきたら嬉しいです。


PHOTOGRAPHS BY UKYO KOREEDA
TEXT BY MARIE SUZUKI



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