【Challenger’s Interview】医療介護の事務作業を軽減——連携ジョシュ×リコーで臨む現場主義の課題解決

「2025年問題」「2040年問題」という言葉をご存じだろうか。2025年には団塊世代約2200万人が後期高齢者となり、2040年には医療介護従事者の現役世代の担い手が1000万人以上減少するという試算がある。この巨大な課題に向き合うスタートアップが、株式会社ジョシュだ。「TRIBUS2024」に採択された同社は、紙やFAX、電話でのやりとりが主流の医療介護現場に対して「一度データを入力すれば、さまざまな手段で一括送信できる」仕組みを提供することで、業務効率化に挑む。目指すのは、医療介護従事者が本来の仕事に注力できる環境づくりだ。同社代表取締役の山﨑康平氏と、カタリストのリコージャパン株式会社 藤原浩一に、TRIBUSを通してどのような可能性が広がったのか聞いた。
山﨑 康平
株式会社ジョシュ代表取締役。メーカーでの新規事業立ち上げ、医療介護業界での人材紹介や新規事業開発を経て、2024年5月に同社を設立。
藤原 浩一
リコージャパン株式会社
デジタルサービス営業本部 熊本支社
熊本第二営業部 LA2グループ
TRIBUS2024カタリスト
医療介護の現場から見えた情報連携の課題
――まずは起業の背景について教えてください。
山﨑 もともとは企業で営業やマーケティングを担当していたのですが、父が脳梗塞になったことをきっかけに、医療や介護の裏方をサポートできないかと考えるようになり、医療業界に転職しました。
株式会社ジョシュ 代表取締役 山﨑 康平氏
前職では患者さんの外出をサポートするサービスを担当していたのですが、例えば患者さんが別の病院へ転院するサポートをするときに、事前にもらっていた情報と患者さんの状態が違うという状況が何度か起こっていたんです。例えば、現場で患者さんを迎えて初めて車椅子や人工呼吸器が必要だと分かると慌てますし、十分に対応できなければ危険ですよね。サポート後も、移動した後の状態や処置を紙のレポートに書いて郵送で報告してほしいなど、アナログな対応を求められることもありました。日常のやりとりの多くがFAXや電話ですし、とにかく情報の連携に課題があることを感じたんです。まずはこれを解決しなければと考えたのが最初のきっかけです。
こうした体験を踏まえて、ジョシュでは「一度入力したデータを、FAX・メール・郵送など相手が望む形式に自動変換して届ける」仕組みを開発しました。情報の受け手には高齢者の方も含まれますし、すべてのやりとりをデジタル化するのは現実的ではありません。アナログな現場の事情を尊重しながら、関係者の負担を減らすことが重要だと考えています。現場の業務負荷を減らすことで、患者さんのケアなどより本質的な業務に時間を割いていただく。これが私たちの目指す現場の姿です。

――TRIBUSへの応募はどのような経緯だったのでしょうか。
山﨑 一番最初に知ったきっかけはFacebookの広告だったと思います。TRIBUSで採択されたという知り合いの起業家からも「リコーさんのサポートはすごい」と聞いていましたし、何より複合機やスキャナーとの連携を考えていた私たちにとって、リコーさんはまさに理想的な協業先です。創業者の市村清さんの書籍を読んだことがあり、「三愛精神(人を愛し、国を愛し、勤めを愛す)」に感銘を受けていたことも即断した一因かもしれません。2024年5月にジョシュを設立し、その数か月後にTRIBUSに応募しました。
――藤原さんがカタリストになられた経緯もお聞かせください。
藤原 私自身は2004年に入社してから熊本支社で営業職をしています。これまで新規事業に関わったことはありませんでしたが、2024年にリコージャパンでも社内副業制度が始まり、熊本でも話題になっていました。その後すぐにTRIBUSの募集があり、新しいことへの挑戦と日々の業務の効率化につながるような知識やヒントが得られたらいいなという気持ちで応募しました。支社では人材が限られており、効率化は大きな課題です。最終的には支社に日々の業務に貢献できるような何かを持って帰りたかったというのが正直な気持ちでしたね。
リコージャパン株式会社 藤原 浩一(取材時は熊本からオンライン参加)
ジョシュさんについては、書類選考から面接まで拝見しました。私自身、医療業界のお客さまと常日頃から関わりがありましたし、知り合いにも医療関係者がいるので、人手不足という業界の課題はひしひしと感じていました。だからこそ、ジョシュさんのサービスはとても面白く、同時に非常に難しい課題に取り組んでいると感じましたね。九州に居る私が関わることで何かお役に立てるんだろうかという不安もありましたが、現場とのつながりを通して何か貢献できるかもしれないという思いから手を挙げました。
現場で感じたリコーへの“期待”と“信頼”
――TRIBUSの期間中はどんな取り組みをされたのでしょうか。
山﨑 大きく二つの方向で連携を検討していました。ひとつは機能面。複合機やスキャナーなどリコーさんのアセットと連携することで、ジョシュができることを「拡げる」という観点でした。
もうひとつは、実際に使用いただく現場を増やすという観点。このサービスがどう「拡がる」可能性があるのかというポテンシャルを見出すことでした。当初、私たちの想定では訪問看護サービスや訪問歯科、往診などご自宅で何かケアをするサービスとの相性がよいだろうと想定していて、実際にそうした場面でのニーズが高いことはわかっていました。ただ、それ以外の大規模な病院や施設までは手が回っていませんでした。TRIBUSでミーティングを重ねる中で、リコーさんのお客さまのなかには病院やリハビリ施設など、規模の大きな医療機関が多数あるというお話を伺い、実際にそういった現場でどのような潜在ニーズがあるのか聞いてみたいという気持ちも強く、ご協力いただくことになりました。

藤原 熊本には私の他に医療介護系のお客さまを中心に担当している営業がおり、その担当を巻き込んで、お話を伺えそうなお客さまのリストをつくり、アポイントを取るところから始めました。医療介護業界のお客さまは非常にお忙しいのですが、連携ジョシュの話をすると興味を持っていただけることが多かったのが印象的でした。なかには訪問の前に資料を送ってほしいとおっしゃる、前向きな方もいらっしゃったくらいです。
おそらくこれは、リコーが単なる複合機の会社とは認識されていないことも一因だと思います。最近ではハードウェアだけではなく、業務効率化などを目的としたソフトウェアまでご提案する機会が増えており、「現場の課題を解決してくれる」という期待感が高まっているのを感じました。
熊本では5件の訪問が実現しましたが、最初は5分か10分というお約束だったのにも関わらず、実際には質問が相次いで全ての訪問先で1時間以上のお話になったのには、私も営業担当もとても驚きました。
山﨑 熱心な現場の方々とお話できたのはありがたい経験でした。熊本のリハビリテーションの病院では、事務的な課題をリストアップした書類までご用意いただいていたんです。これには驚きましたし、課題の多さと深刻さをあらためて実感しました。
加えて感じたのは、リコーさんとの関係性の深さです。「リコーさんだったら何か解決してくれるのでは」という期待感があるからこそ、こうして現場の課題を細かくお話しいただけたのだと思います。
今回は熊本に加えて奈良の営業所の方にもご協力いただき、実際に施設を訪問したのですが、到着した際にお客さまが営業の方にかけられた第一声が、まさかの「ハッシュドポテト食べる?」だったんです(笑)。どこかからたくさんもらったので、お昼ご飯に食べていくかという確認だったようですが、その関係性の深さには驚きました。まるで近所付き合いのようですよね。私自身営業経験があるからこそ、このやりとりの背景にあるお付き合いの長さや深さが伺えて、とても感銘を受けました。

藤原 元々リコーは複合機を中心に扱っていますので、企業でいうと総務部に当たる方々がお客さまになることが多いんです。山﨑さんがお感じになった信頼感や期待感というのは、長年そうした事務作業の現場と向き合ってきたリコーの知見や実績からきているのかもしれません。
実は、ジョシュさんとの訪問は私の本業である営業活動にも活かされているんです。この訪問を通じて、普段の営業活動では伺えないような現場の課題を聞くことができ、別の視点からご相談をいただくこともあり、新しい関係を築けていると感じています。
TRIBUS後も続くグループとの連携と挑戦
――具体的にTRIBUSを通じてどのような成果が得られましたか?
山﨑 まず定性的な部分ですが、ヒアリングを通じて社内で「中長期的にどんなサービスを、どこに向けて提供するのか」といったことを共通言語化できたことは、とても大きな成果だと感じています。日々の業務ではどうしても目先のプロダクトや案件への対応に目がいきがちですが、こうした中長期的な視点を持つことの重要性をあらためて理解できましたし、今回得たものは今後の財産になると感じています。
リコーさんとの連携という点では、2025年4月に発表させていただきましたが、リコージャパン株式会社熊本支社との販売連携が実現しました。
藤原 7月にはリコージャパン熊本のフェアにも出展していただきました。医療介護業界に特化したイベントではなかったので集客できるか懸念していたのですが、10社くらいはお話を聞かれて、熱心に質問される姿も見られました。今後は、医療介護業界のお客さまにリコー製品を導入していただく際に、ジョシュのサービスもセットでご購入いただくということを検討しています。まだハードルはありますが、私たちの商流に乗せることでより密な連携を進めたいと考えています。

山﨑 TRIBUS期間が終わってもこうして連携を続けていただけるのは非常にありがたいことだと思っています。
機能的な点についても、スキャナーを取り扱うリコーグループ会社のPFUさんとの連携も進めています。ジョシュのサービスで最初に鍵を握るのがデータの取り込みです。卓上スキャナーで書類を読み込み、ジョシュに直接データを送れるようになれば、現場の手間を大きく減らすことができます。初回契約時のキャンペーンとして、そのスキャナーをプレゼントして実際に使用してもらうということも企画していまして、現場からフィードバックをいただきながら連携を強化すべくブラッシュアップを図っています。医療介護の現場では基本的に皆さんが事務所に集まってお仕事をされていますので、その現場にハードウェアがあることでより一層サービスを身近に感じ、使っていただける効果も大きいです。

――最後に、お二人からメッセージをお願いします。
山﨑 TRIBUSの皆さんには本当に快くご協力いただきました。医療介護の現場は全国にありますので、全国にネットワークを持つリコーさんと連携できるのはとても理想的です。私たちは自分たちの売上を拡大したいという気持ちよりも、一刻も早く多くの医療介護現場に届けたいという思いで、日々活動しています。TRIBUSはそうした強い思いを持つスタートアップが具体的な活路を見いだすためにも、非常に適したプログラムだと思います。
藤原 冒頭でもお話しした通り、私は入社以来ずっと熊本で営業をしてきましたので、スタートアップとは縁遠いところにいました。ただ、一歩踏み出したことで今までの営業活動では見えてこなかったものが見えてきたという感覚があります。5分、あるいは10分のアポイントが1時間に延びたこと。お客さまから自発的に現場の課題を挙げていただけたこと。いつもと違う視点でお話をすることで、お客さまの課題を聞き出せることが増えるのだと実感しました。そして、やはりスタートアップのスピード感は刺激になりました。私と同じように営業一筋という方は多いと思いますが、チャレンジしたいと思ったその時に、一歩踏み出すことが一番だと思います。

PHOTOGRAPHS BY YUKA IKENOYA (YUKAI) TEXT BY MARIE SUZUKI