【CEO×Leaders】一期生に期待すること。TRIBUSのこれから。

  TRIBUS2期目の最終ピッチを前に、“一期生”のチームリーダーたちと山下社長に、TRIBUSの意義と可能性について語り合っていただいた。冒頭、各リーダーからこの1年の活動と現在の状況を伺ったが、合いの手を入れるように合間合間で話しかける山下社長の言葉からは、常に一期生たちの事業化の進捗に気を配り、心を砕いていることがよく分かる。 また、「事業開発、事業化が第一義」ではあるが「定点観測すれば、人材育成にもなっているかもしれない」、「文化を変えるものとして定着してほしい」と多角的に論じ、「一言では定義できないよ、生き物だし」とTRIBUSを語る山下社長。一方のチームリーダーたちの言葉からは、「TRIBUSとは何か」を言語化するのは難しく、実践を通してしかその先の世界は見えてこない、という強い意志が伝わってくる。コロナ禍による社会の激変、カンパニー制への移行と、社会もリコーグループ全体も大きく変化しようとしている今、TRIBUSを改めて振り返る。  
山下良則
株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEO
綿石早希
Rangorieチーム。インド柄の女性用下着の製造販売を通し、女性のエンパワーメント、女性雇用の創出を目指す。
野村敏宏
StareReapチーム。産業印刷技術からスピンアウトした特殊な2.5D印刷で、アートブランドの構築を目指す。
前鼻毅
XRチーム。VRが一般化した社会での快適で便利な働き方実現を目指す。ソリューションの開発というよりも哲学の創出に近い。2020年11月、東急建設とのPoCを発表。
斎藤啓
WEeeT-CAMチーム。3Dプリント技術を活用し、途上国におけるピコ水力発電事業の開発に取り組む。LIFE PARTSブランドとして、日本国内での実証検証を目指す。

  将来財務としてのTRIBUS   ――2期目を迎えているTRIBUSについて、どのように感じていますか。感想や評価がありましたら、お教えください。 山下「2サイクル目に入って、今年はリモートでのピッチが中心ですが、私もようやく慣れてきて、この後も全部見ようと思っています。一期生については、内外でとても注目されていることを感じますね。社内には、この業績が厳しい状況の中で、なぜあれをやるのかという意見も、もちろんあります。しかし、財務の評価指標には、現在指標と将来財務指標があって、今、リコーはそのバランスがあまり良くない。経営者としては、現場を見ながらそのバランスを取っていかなければいけません。その意味で、TRIBUSは今後も続けていかなければいけないものだと思っています。 最終審査を通った一期生たちには、2020年4月から正式に専任になってもらっているわけですが、なんとしても成功させてほしいし、成功させてやりたいとも思っています。彼らを加速させることは、やめるときの決断にもなりますから。いつまでもダラダラやっていてはいけない。2年と期限を切っていますし、次に二期生も上がってくる。こうした動きを面にしていく意味でも、一期生には期待したい。 また、一期生たちには、自律型人材のロールモデルにもなってもらいたいと思っています。実は、人材スペックは定義しにくいもので、『誰それみたいになれ』というと分かりやすいし、そういう文化を醸成したい。僕もこの1年はそのお手伝いをしてきたつもりです。 経営会議などでの発表もさせないようにしてきました。何と言っても手間が掛かってしまうし、今までにないまったく新しい事業を評価することは、役員であっても専門外であれば難しいですから。TRIBUSで扱うテーマのいくつかは会社でもこれまで扱ってきたことのない世界であり、小さく実行していくプロセスもこれまでにないやり方でした。一般的に企業のなかで事業を検討する場合、市場規模はどうかとか、ビジネスの可能性はどうか、といったことが問われ、提案に対して承認を経て活動になりますが、そういったことよりも先に、『なぜ自分自身がこのテーマに取り組みたいのか』とか『社会や顧客が求めている』とか、そういうことを大事に耳を傾けてきました」 ――山下さんご自身も、将来財務のために何かされたことはあるのでしょうか。 山下「一例を挙げると、30年くらい前に、野中郁次郎先生、竹内弘高先生、石倉洋子先生のゼミに社外研修として参加したことがありました。当時はまだ海外赴任前で、英語の講義はさっぱり分からないし、野中先生の著作は非常に難解でしたけど(笑)、当時はとても心酔していたものです」     TRIBUSで起きた社内変化   ――TRIBUSで、社内に何か変化はあったでしょうか。 山下「TRIBUSに関わろうとする人には『チャレンジしたい人』『今は、アイデアはないけどサポートしたい人』という2種類がいますよね。2期目では、このサポーターがすごく増えている。特に30代、40代で参加する人が増えているという手応えを感じています」 綿石「それはやっている私たちもすごく感じていることです。TRIBUSのコミュニティーで、『こんなことができるでしょうか』と相談ごとを投げると、即座にバーっと返事をいただけて、すごく助かっています」 山下「あれは1500人くらいのコミュニティーでしょう。役員とかマネージャーもひとりの個人として参加しているのがいいところなんじゃないかな(笑)」 野村「アメーバとでも言うか、相互補完的にみんながみんなの足りないところを埋めていくという空気、雰囲気になっていますね。組織の壁がなくなって、すごくフラットな関係が生まれていると思います」     斎藤「評価される、されないを気にせず手伝いに入ってきてくれていますよね」 山下「業務評価されるコアの仕事じゃなく、上司に評価される範囲ではない仕事として取り組んでくれる人たちなんだから、あなた方、大切にしないといけないですよ」 前鼻「サポーターとは違いますが、既存の組織、部署が前例のないことに対応してくれるようになっていることも強く感じます。TRIBUS自体が前例のない取り組みなので、これまでのやり方では収まらない部分もあり、『なんとかしましょう』という空気になる。知財、法務関連などでそういう協力を得られるようになったのは大きな変化です」 山下「TRIBUSの現在の状況を見て、外からは『人材育成ですか』『組織改革ですか』と聞かれることが多いんです。でも、成功体験、失敗体験を繰り返さないと人は成長しません。だから、TRIBUSで取り組むべきことで一番大切なのは事業開発です。事業化を通して、本当に苦労して、成功したり失敗したりしないと人は育たない。そこをズラしちゃいけない。事業開発が第一義です。だからやめるときはやめるし、やるやつはとことんやる、と言っている。その過程で、仲間ができる、文化が醸成される、ということがあるかもしれないし、個々の人材の自律化が進む、ということが、結果として大きくなるということはあるかもしれない。そういうつもりなんです。 これからの企業はサステナブルでなければならないと思うのです。繰り返しにはなるけど、そのためには投資の方向を、将来財務指標のほうに少し変えて、ポートフォリオのバランスを良くしないといけない。もちろん、現在の財務指標を無視していいわけではありませんし、『今に集中していればもっと収益が上がっているはず』という声も聞こえるかもしれません。ただね、その意味で、TRIBUSから生まれた新規事業に対して、『これで、いつ、どれくらいの収益が出るんだ』と最初から問うのは愚問だとは思っています」 ――各チームリーダーの皆さんは、プロジェクトを統括する立場として、経営者的な視点もお持ちかと思いますが、今の山下社長のコメントを聞いて、どう思われますか。 綿石「私はありがたいの一言です。お話を伺って、襟を正したという気持ちです。TRIBUSで、山下さんはじめ多くの方にサポートしていただいていることを改めて実感しました。企業にはさまざまな立場の方がいますから、新規事業に入っていくことをリスクに感じる方もいると思います。山下さんはそこを、将来財務をよくするという考え方を持って、各所にコミュニケーションをとってくださり、事業を自由にやらせてくれている。こうした環境は自分一人の力でつくることはできないですし、本当に感謝しかありません」     山下「自由というのは責任が重いからね」 前鼻「本当にすごいなと思ったのは、スピード感ですね。TRIBUSの取り組みや、事業化に向けて必要な組織に関しては、かなり柔軟な対応を指導されていると感じています」 山下「いままでにない取り組みなので、現場の声を聞きながら、最適な環境をつくりたいなと」 野村「TRIBUSでは企画を自らの手で実践する機会を頂いていると思っていて、数字では分からない現場の感触、人情の機微などを学んでいるところなんですけど、こういうことは本当に現場で学ぶしかないと思います。また、今は率先垂範型のリーダーシップでないと駄目だと言われますが、TRIBUSはそれが実践できるプロジェクトです。それに取り組める環境を、中長期的な視点から支えてくれる山下さんには感謝しかありません」 斎藤「僕は他の企業も経験しているんですが、こういう場を作ってくれることも含め、ボトムアップで進める体制を作るのはすごいですね。他の企業ではちょっと考えられないです。トップダウンで落としこむのではなく、信頼してついていこうと思わせてくれる。その意味で、山下さんを信頼しているし、僕もチームメンバーに信頼されるような人になりたいと思いました」     TRIBUSは生き物である   ――新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う社会変化。また、リコーグループ全体もカンパニー制に移行するなど、激動の時代において、TRIBUSに期待することはありますか。 山下「TRIBUSというのは、一言で言えるものじゃないんですよね。選ばれなかったチームも含め、エントリーした社員、チームが新しい取り組みにチャレンジしていくということも大事ですが、運営している事務局のスタッフワークもものすごく難しくて、これも新しいカルチャーを作っている。一期生には一期生の役割があり、二期生には二期生の役割があり、経営幹部や周辺もサポートするために変わっていかないといけないでしょう。結構いいところまで来ているとは思いますが、まだまだ、という面もあります。 だからと言って、皆が皆、新規事業開発に取り組めばいい、挑戦者にならなければいけないということでもないでしょう。また、審査には通ったけど、結局『この事業は止めよう』、ということになったとしてもいい。その経験をすることで、将来より良いマネージャー、リーダーになって、リコーの成長に貢献するかもしれない。 なので、TRIBUSに期待すること……という一言で語るのではなく、TRIBUSがどういう構成で成り立っていて、何をしているのかを理解して、そのそれぞれに対して、会社が何をすべきか、支援したらいいか、というように考えて整理すべきです。同様に、TRIBUSのアウトプットもひとつだけではなく、目に見えないものも含め、さまざまなものが生まれることになると思いますよ。 カンパニー制になると、ビジネスユニットごとに事業をよりピュアにシンプルに見ることになります。ややもすると短期的な視点に流れるかもしれませんが、しかし、それぞれのビジネスユニットの事業は強くなる。そこでは、改めてリコーグループが強い求心力を持つ必要がある。その求心力として、Fw:D Project Teamがあったり、3L(施設)があったりするわけです。TRIBUSもそのひとつとして定着させたいので、どこかのビジネスユニットに入れるということは考えていません。単一の目的だけで形にしちゃうと実行力がなくなるんですよ、TRIBUSは生き物なのでね」  
2019年度にエントリーした、株式会社ワールドとリコーの協業チーム「セットアッパーズ」提案のUNBUILT TAKEO KIKUCHIのセットアップ(BLACK RAMSモデル)を着用して取材に答える山下社長
  自律型人材の創出、新たなリコーブランド   ――今後に向けて、意気込みをお願いします。 前鼻「今日のお話を伺って、山下さんのバックグラウンドやお考えのことが垣間見えて、思いを新たにしたというよりは、変わらずにこの方向で進めていこうという気持ちが強固になりました。 また、この場をお借りして、事務局の運営メンバーにもお礼をお伝えしたいです。プロセスの要です。その柔軟さ、僕らの思いの汲み取り方、寄り添い方等、本当にすごいと思います。ありがとうございます。 僕らは社会課題起点ではなく、技術中心で集まっているメンバーなので、その価値を発揮する場所を探さないといけない。そこはひとつのハードルですが、VRが当たり前になった社会で、人が便利に働ける社会を作るために、さらに加速していきたいと思います」     綿石「今回お話を伺って、私たちが目指していることが、リコーが目指す社会とまったく同じだということも分かったと思います。私たちは、性別などのさまざまなもので固定された役割に縛られ、力を発揮できない状況からの解放を目指していますが、それは社長の言う『自律型人材』にとても近いと思います。それは女性だけに限ったことではないし、インドだけの話ではありませんよね。そのために、3月に日本でランゴリーのプロジェクトを始めるつもりです」 斎藤「今回こうやって活動していて、チームとかメンバーとかの境界線がなくなってきていることをすごく実感しています。多分、今社内の新規事業開発のエコシステムを一番経験しているのは僕たちなんじゃないでしょうか。この良さを、他の人達にも展開していきたいと思いました。そうすれば、リコーグループのリソースで社会に価値をもっと生み出せると思います。 今まではリコーという会社の組織の安全な中で活動する人が多かったと思います。僕らは、この活動を通して、その安全のギリギリ……もしかしたらその境界も超えるところまでチャレンジしていきたいと思います。 また、TRIBUSって本当に生き物だと思います。だから、この成長するタネを、いろいろなところへ撒いていくことができたらと思います」 野村「良い機会をいただいて、楽しみながら取り組んでいるところですが、こうやって生き生きと働いている姿を、内外に見せることが僕らの役割のひとつだと思います。これがリコーという会社への貢献につながるといいなと思います。 また、一期生としては、TRIBUSの象徴として、もちろん成功は目指しますが、失敗したら、その失敗もしっかりと後輩に見せてリコーグループの資産にしたいと思います」 山下「失敗するときも、華々しく失敗してほしいね。気がついたらあれ? やってたっけ?みたいになるんでなくてね。成功のほうがいいには決まっているけど、どうしたのかな~?で終わらないでほしいな(笑)。 僕は、2017年に社長に就任したときに、とにかく社員が生き生きと仕事する会社にしたいと思った。抽象的だけど、人は疲弊すると力を発揮できないと思うんです。そしてまた、社員というのは人数じゃなく、モチベーションの総和で考えるべきではないかとも思う。それを測るのは社員が元気かどうかしかない。簡単なようだけどね。そういう環境を作るのが経営者の仕事だと思います。 就任して1年は毎日のように現場を歩きましたけど、アメリカで生産会社の社長をしていたときも、毎日のように現場を歩いたことがありました。すると、生産ラインの人たちが『5年ぶりに社長を見た』と言う。そのうちに僕を見かけると手を振ってくれたりしてね(笑)。こういうタウンホールミーティングもそうですが、そうやって現場を見ていると、生き生きと仕事している人、そうでない人の2種類がいることに気づきました。生き生きと仕事をしている人は、自分の仕事を自信を持って話せる。生き生きとしていない人は、その人が悪いのじゃなく、組織とか上司が良くないのだと思う。もし、社員全員が生き生きと仕事ができるようになったとしたら、相当、強い会社になるんじゃないか。そして、それを自律型人材と呼ぼうと決めました。 自律型人材というのは、『カクカクシカジカである』というようにはっきりとは定義していないんです。あまり形式に寄っちゃうと役職資格の審査基準みたいになっちゃうでしょう(笑)。これは結局、定義して理解してなれるものではなく、実践を通してしか得られないものだと思います。そして、その方向を示したのがリコーウェイです。 社員一人ひとりが元気に、それぞれの意思で良いアウトプットを出す。その過程で成長する。そういう自律型人材の社員一人ひとりがリコーのブランドになると思います。これは、実はリコーウェイが示していることでもあるし、幅広い定義ですが、それを実践する人を自律型人材と呼ぶことにしています。デジタルサービスの会社になるためには、そういう自律型人材が増える必要がありますし、自律型人材が増えれば強い会社にもなると思います。 いつか僕もTRIBUSに応募しようかなと思ってます(笑)」    
PHOTOGRAPHS BY Masanori IKEDA (YUKAI)
TEXT BY Toshiyuki TSUCHIYA



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