「TRIBUS 2023」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」開催レポート<Part2>

2月8日(木)、事業共創を目指す社内外統合型のアクセラレータープログラム「TRIBUS 2023」の成果発表会「TRIBUS Investors Day」が、株式会社ユーザベース本社 丸の内オフィスで開催されました。レポート<Part2>では、社外スタートアップ企業によるピッチの内容をご紹介します。応募総数132社の中から選び抜かれた9社が登壇し、アクセラ期間中の共創活動の成果を発表しました。
スタートアップ企業のプレゼンテーション
※以下、事業概要/所属/代表者名の順株式会社スカイディスク 塚本真歩氏

スカイディスクは、「最適ワークス」という中小企業向けの生産計画DXサービスを提供している企業です。アクセラ期間中は、リコーの販売チャネルや取引先向けに知名度向上やサービス展開の強化を図るべく、アンケートや個別ヒアリング、製造業の営業部門向けの勉強会などを実施しました。その成果について塚本氏は次のように話しています。
「中小企業の製造現場が抱える課題への理解を深め、最適ワークスの提供価値を実感できました。当初、想定していた3社を大幅に超える26社からのフィードバックを獲得し、そのうち4社から引き合いをいただいております。勉強会は、サービスを知っていただく好機となっただけでなく、3社とは即時に商談に発展しました」
リコーエレメックスの工場内での試験活用では、サービス機能の改善につながるフィードバックも獲得しました。今後はサービスの汎用性を活かして、日系の海外工場への展開も視野に入れていく予定です。
「スピーディに検証を進められたことでPMFが大幅に前進し、中小企業向けのサービスとしての可能性を実感することができました。TRIBUSでのご縁をきっかけに、引き続き連携させていただけると幸いです」
2.株式会社RICOS 井原遊氏

RICOSは、独自AIモデルや最適化システムを用いて、製造業の設計業務の高度化・効率化に貢献するサービスを展開しています。その一つである「RICOS Lightening」は、CAEを用いた工業製品の設計・開発・シミュレーション結果を予測する独自のアプリケーションです。これまで数日を要していた空力・流体性能の予測にかかる時間を十分程度にまで短縮し、シミュレーションにかかる時間を大幅に削減することを可能にしています。もう一つの「RICOS Generative CAE」は、自動最適化CAEツールです。自動で3Dモデルを作成・シミュレーション・デザイン案の変更のループをシステムが自動で行い、より良いデザインを自律的に導くことで、長年の課題となっていた業務の効率化を解決します。
アクセラ期間中は、リコー 先端技術研究所の設計担当者の方にサービスを使用していただき、エンジニアの方々からは、現場目線で必要な機能などについて貴重なフィードバックをいただきました。それらもとに、サービスの改善にもすでに着手しています。今後も、先端技術研究所の皆さまとの共創を継続させていただけたら幸いです。
3.オングリットホールディングス株式会社 森川春菜氏

オングリットホールディングスは、独自に開発した「インフラ監視システム」の活用により、高所作業車の使用減を実現し、CO2排出量の削減につなげることを目指しています。
このシステムの特徴は、独自のAIシステムにより道路附属物を識別し、その対象物の状態が健全か、腐食や落書きなどの異常がないかを検知させ、スクリーニング的に点検を行えることです。アクセラ期間中は、本システムの精度向上のために、リコージャパンと連携して車載カメラを営業車に設置することで教師データの取得に取り組みました。
結果的には、今まで取得できていなかった悪天候時のデータを多く取得することができたほか、沿岸部のデータは、市街地と比べて塩害による腐食が進んだ道路照明が多く見られるなど、新たな腐食データの発見が多くあったことで、見逃しや誤検出の値が改善され、AIの精度を向上することに成功しました。
また、PFU事業開発本部やリコー内の関係部門(リコーフューチャーズBU 社会インフラ事業センター、デジタル戦略部、先端技術研究所 HDT研究センター)の担当者へのヒアリングを行いながら、共創パートナーとして関係構築に向けた具体的な検討を開始することで、新たなシナジーを生み出せるように取り組んでいます。
4.株式会社助太刀 赤田修氏

「建設業界の企業と職人にとって、情報格差がなく対等で活発なビジネスマッチング機会を創出したい」という強い想いのもと、建設業界に特化したマッチングプラットフォームの構築をめざす助太刀。特筆すべき点は、最適なマッチングを実現するだけでなく、スキルと単価の関係性を可視化することで、業務の健全性を担保すると共に、働く人にとっての成長にもつながるソリューションであることです。
TRIBUS期間中は、20万にも及ぶ建設事業者のビッグデータをもとに、企業側の正社員採用力を待遇、体制、運用、求人票の4項目に分けて採点し、企業側に改善ポイントを提案する採用コンサル活動を実施しました。
「我々のようなスタートアップは新規事業のアイデアはあっても、実施するリソースに限りがあります。今回、カタリストの方々に手厚くサポートしていただいたおかげで、2ヶ月で応募数がゼロに近かった企業が、2週間で応募2件を獲得するなど、建設業に特化した採用コンサルに手応えを感じることができました」と赤田氏は話しています。
今後は、採用コンサルの型化を進め、直販による販売の開始をめざしているとのことです。中長期的には、代理店への展開、他社の求人サイトとの情報連動、派生した新規ビジネスの提案やストックビジネスにもつなげていく考えです。
5.株式会社アルダグラム 定田充司氏

アルダグラムは、世界中の建設現場の働き方を改革する現場DXサービス「KANNA」を開発・提供する企業です。現場帳票の作成や集計の手間を大幅に削減する現場帳票作成アプリ「KANNAレポート」と、建築現場の進捗管理や情報共有に必要な機能を集約したプロジェクト管理アプリ「KANNAプロジェクト」を展開しています。
アクセラ期間中は、リコーとの開発・販売の双方における事業拡張可能性を検証しました。まず、帳簿作成業務のデジタル化におけるニーズ検証では、リコージャパンへKANNAを紹介するプレゼンテーションを複数回実施し、「工種・業種を問わず提案可能で、提案商材に迷うという営業課題の解決に貢献できるサービス」といったフィードバックを得て、協業への手応えを確認しました。また、約1,000名の建設従事者を対象としたアンケートも実施し、約8割が帳票作成業務に課題をあげる一方で、ソリューション導入率は1割未満であり、市場規模の大きさを確認しました。
次に、リコーが開発する360度カメラ「THETA」とKANNAプロジェクトの連携ニーズ検証では、リコーフューチャーズBU Smart Vision事業センターの協力を得て、THETAのユースケースや連携に不可欠な機能を明確化しました。ユーザーヒアリングを行う中で見えてきた共通点は、現地調査におけるTHETAの活用でした。現地調査を行うKANNAユーザーはとても多いため、両サービスの連携が有効である可能性が高い一方、「THETAと工事案件の紐付けはしたいが、施工管理アプリの導入はトゥーマッチかもしれない」との声もあったため、今後は、THETAとの連携に必要な機能を切り出して提供し、さまざまな工種の建設業や不動産管理など他業界でも横展開しやすいサービスも検討していきます。
6.株式会社CONOC 千賀弘瑛氏

続いて、建設業界の中小工務店向けにDXソリューションを提供するCONOCの千賀氏が登壇しました。 アクセラ期間中は、建設業のバックオフィスに関するアナログな管理を一元化できる独自の業務管理クラウドとリコーのTHETAとのAPI技術連携の確認をはじめ、サービスの概要設計、リコーの関係部署とのリレーション構築やクライアントへのヒアリングを実施しました。 「現場調査業務に対する潜在的ニーズを確認することができ、大きな可能性を感じています。360度カメラのTHETAで撮影した写真データは、共有してこそ価値があるものですが、共通のツールを持っていない場合はデータが見られないので、共有方法については検討を進めていきます。あらゆる一連の管理業務をシステムとつなげるなど、THETAדx”でTHETAの付加価値を向上させながら、中小工務店が抱える現場の労働力不足の解決と生産性向上を飛躍的に加速させていきたいです」
7.amu株式会社 加藤広大

amuは、海洋プラスチックごみの約40%を占めている廃漁具を回収し、「再生ナイロン素材」として再資源化するビジネスを展開しています。アクセラ期間中は、従来90日以上かかっていた廃漁具の物性調査から回収までの期間を短縮するために、リコーの樹脂判別ハンディセンサーを活用した実証実験を行いました。
「沼津で廃業し、漁網の始末に困っていた漁師さんとのご縁をカタリストの方がつないでくださいました。ハンディセンサーを持って伺ったところ、その場で回収可否の判断を行うことができました。廃漁具の回収と精密な物性調査を同時進行で行えることは、まさに画期的です。以前は回収までに90日かかると言うと、漁師さんのモチベーションが下がっていたのですが、このハンディセンサーがあれば、漁師さんのモチベーションを高く保ったまま、回収スキームを構築できます。物性調査を行う連携会社の工数を4分の1に減らせることも確認しました」
リコーのネットワークを活かして、京都、岡山、宮城など、全国各地の業者から廃漁具の回収の相談も受けていると言います。将来的には、ナイロン素材だけでなく、ポリプロピレンやポリエチレンなど、あらゆる素材の漁具を回収し、再資源化を行っていくことを目指しています。
「小さなベンチャーだけではどうにもならない課題解決において、今回、リコーの皆さまに大きな力を貸していただきました。この事業を加速させるために、これからもぜひ私たちと一緒に走り続けていただきたいと思っています」
8.株式会社PIJIN 末廣陽一氏

次に登壇したのは、クラウド型多言語情報表示サービス「QR Translator」を展開するPIJINの末廣氏。アクセラ期間中は、個品QRのインバウンドマーケティングに関する付加価値の検証に取り組みました。
1個のQRコードで多言語・音声情報の発信が可能で、アクセストラッキングを行えるQR Translatorと、リコーのラベルレスサーマル技術、高速レーザーでの可変印字技術を掛け合わせ、ドリップコーヒーやソフビ人形など、実際に販売されている商品を使って、ユーザーのデータ取得の実証実験を行いました。
「現状はサンプル数が少なく、多言語・音声対応QRの強みを活かした有効な検証とは言い切れませんが、個品QRの生成プロセスと個品QRへのアクセスデータが取得できることは実証できました。また、超大量の個品QRコード発行・管理については、現行のQR Translatorシステムの改良・追加開発が必要であることも分かりました。今後は、リコーさまとの協業を通じて、小中規模の実証実験を継続し、見込み顧客企業へのヒアリングを重ねながら、個品QRの付加価値や適用分野を見極めていく予定です」
「長期的には、インバウンド分野に限らず、大量印刷を行う商品パッケージで多言語・音声対応の個品QRを実現し、大規模事業者へのアプローチを進めていきたいと考えています。TRIBUSでの出会いをきっかけに、お付き合いいただけたら幸いです」と末廣氏は今後の展望を語りました。
9.株式会社Flooow 田原將志氏

最後に登壇したのは、個品QRの高速生成・高速印字技術を活用し、消費財メーカーに向けたCRMサービスを提供しているFlooowの田原氏。アクセラ期間中は、リコーのラベルレスサーマル技術を使って印字した個品QRを、マーケティング領域の顧客データの取得および分析に活用したいと考え、事業化に向けたさまざまな検証活動を行いました。
「自社のロイヤルカスタマーを特定したい消費財メーカーに対し、個品QRによって得られる購買データと分析プラットフォームを提供する」というサービス仮説のもと、15社以上の企業・ブランドの宣伝部担当者へのヒアリングを実施し、収益化につながる顧客課題を発掘しました。
「メーカーと顧客の間に卸業者・流通が複数存在するため、顧客の購買データがメーカー側へ十分に還元されていないことが分かりました。一方、現状の調査・POSデータで一定の満足を得られているという声もあり、データ訴求単体でのリプレイスは難易度が高いと判断しました。そのため、データの取得のみに留まらない顧客課題と訴求ポイントを、さらに深掘りし整理しました」
今後は、シールを活用した簡易PoCと共に、パッケージに直印字できるラインを使った検証を重ね、それを足がかりとしてメジャー商品のPoCと正式サービス化につなげていく考えです。
「今日を新たなスタートの日として、個品QRを活用したCRMサービスの事業化に向けて、リコーの皆さまと共にチャレンジしていきたいと思っています」と田原氏は述べ、ピッチを締めくくりました。
審査員からの講評と激励
授賞の詳細については一報をご覧ください。ここでは、授賞式の最後に審査員から贈られた講評と激励をご紹介します。
Spiral Innovation Partners 代表パートナー 岡洋氏

「今回も多様なテーマで楽しませていただきました。スタートアップの皆さんは、密度の高い検証を行っていて解像度も素晴らしかったです。リコーさんの持つアセットを活用するだけでなく、なぜリコーさんと協業するのか、その意義などについても議論の場を持てるとさらにいいのではないかと思います」
STATION Ai株式会社 代表取締役社長 佐橋宏隆氏

「スタートアップにとっては、リコーさんとの協業によって新しい課題を発見するだけでなく、新たな顧客セグメントにおけるPMFにつながるきっかけになったのではないかと感じました。社内起業家チームからは熱意が伝わってきて、胸が熱くなりました。良い意味でのしつこさやあきめない気持ちは、起業家にとって不可欠です。プロダクトを実装していく力やスケールアップいく力はもっと伸ばせると思うので、貢献できたら嬉しく思います」
新生インパクト投資株式会社 代表取締役 高塚清佳氏

「社内起業家の皆さんは発想がとても自由で、幅広い事業提案に驚きました。スタートアップの皆さんは、リコーさんとの検証内容が非常に具体的で、プロジェクトの質の高さを実感しました。どんな社会課題を解決する事業なのかを常に考え、本業との間を行き来しながら検証を続けて欲しいと思います。そして、顧客やステークホルダーの課題解決を積み上げていった先にたどり着くシステムチェンジまで構想して、事業を大きく広げていただきたいなと思います」
株式会社ANOBAKA パートナー 荻谷聡氏

「印象に残ったのは、スタートアップに寄り添うカタリストの方たちの熱い想いです。連携の解像度が年々増していることを感じましたし、いいオープンイノベーションが生まれる期待感があります」
株式会社アルファドライブ 代表取締役社長兼CEO 麻生要一氏

「スタートアップの皆さんは、今後さらにリコーさんとの関係性を深めていくと思いますが、リコーさんのアセットを活用して自分たちのプロダクトを売っていこうという発想ではなく、リコーさんと組むからこそ生み出せる新しいプロダクトや事業を目指して欲しいと思います。社内起業家賞を受賞した3チームについては、斬新なビジネスモデルであると共に、高い収益性が期待できると感じました。今回、事業化に至らなかった皆さん、あくまで今日時点での結果なので、来年もぜひ再チャレンジして欲しいと思います」
株式会社ユニッジ Co-CEO 土井雄介氏

「スタートアップにこれほど真摯に寄り添う大企業の人たちを私は見たことがありません。リコーさんとなら、これまでにない協業モデルをつくることができると思います。それを実現できる関係性ができていると思うので、素晴らしいオープンイノベーションが生まれることを期待しています。社内起業家チームについては、先にもコメントした通り、TRIBUSを通じて人が覚醒する瞬間を目の当たりにさせてもらいました。『こんな風になるとは、自分では思ってもみなかった』ことが、視聴者の皆さんにも起きる可能性は絶対にあると思います」

最後に、リコーグループ審査員を代表して山下良則がコメントしました。
「2019年、TRIBUSがスタートしたばかりの頃は、社内起業家とスタートアップの皆さんが登壇する統合ピッチが、果たして成り立つのかという声もありましたが、素晴らしいビジネスのアイデアを持つ人材を褒め称える文化を作りたいと思い、始めました。それから5年経った今、プログラム自身が大きく成長し、TRIBUSコミュニティも2,000人が参加するまでに広がりを見せています。皆さんのことを誇りに思いますし、これからも成長する姿を後押ししていきたいです。昨年4月、リコーウェイを改定し、“はたらくに歓びを”を我々の『使命とめざす姿』と定めました。仕事を楽しみ、仕事を通して世の中の役に立ちたいと願う、そんな社員を増やしていきたいのです。企業の最大の宝は、社員のモチベーションです。それを高めるためにできることは何でもやりたいと思っています。今日のピッチや外部審査員の方々のコメントを聞いていて、私も力が湧いてきました。皆さん、本日はどうもありがとうございました」
2024年のTRIBUSは、社内起業家の募集が3月初旬から、スタートアップの募集が6月初旬から開始します。今後の動向にもぜひご注目ください。
TEXT BY Yuriko Kishi