【Challenger’s Interview】プログラム後のフォロー期間で成果を挙げた「ユニボ」の七転八起

2020年「次の当たり前になる」をテーマに、15社がアクセラレーションプログラムに参加したが、そのうち、成果発表を過ぎた後も、2021年の9月までTRIBUSと連携して活動を続けていた採択スタートアップチームがある。「コミュニケーションロボットによる人手不足ソリューション」をテーマにエントリーしたユニロボット株式会社がそれだ。当初、DXと人手不足への対応、AIなどをキーワードにリコーとの新事業の方向性を探ってきたが、最終的に落ち着いたのは教育事業。しかも、アクセラレーター期間終了後の2021年4月から市場調査を行い、6月からコサイエ(アフタースクール)での実証実験を開始してからも、そのコンテンツは何度も改良されたという。新規事業探索、開発、実証実験をアジャイルに繰り返した七転八起の日々を振り返っていただいた。



インタビュイー
ユニロボット株式会社代表取締役 酒井拓氏
株式会社エデュゲート代表取締役 鈴木博文氏
株式会社エデュゲート取締役 小林玲音氏
TRIBUS 2020 カタリスト:株式会社リコー 先端技術研究所 谷川哲郎氏



紆余曲折と七転八起の足跡


「ユニボ」はユニロボットが開発したコミュニケーションロボットである。顔認証、感情解析、音声認識などAIを活用した機能もあり、クラウドで統合プラットフォームも提供する。カスタマイズも容易で、受付や音声応答、教育事業など、さまざまな分野で活用が進む。ディスプレイモニターが豊かな表情を生み出すなど、他のロボットにはない特徴もある。

――どのような経緯で、応募に至ったのでしょうか。

酒井「TRIBUSのサイトで「次の当たり前になる」というTRIBUS 2020 の募集テーマを拝見し、私たちの目指す世界観と合致していると思ったんです。私たちが考えているのは「そばにロボットがいる生活」「ロボットによるサービスの普及」が当たり前にある社会です。以前からリコーとはお仕事でのつながりもあったので、応募してみようと思いました。

エントリーの時には現在のような教育事業の形はまったく考えていなくて、ユニボをいろいろなところで使いたい、何か一緒にソリューション、サービスを開発しませんか、というような提案に留まっていました。ただ、基本的には、人手不足への対応であるとか、DXの文脈でのロボットサービスの導入であるとか、そのようなロボットの活用シーンや新しいソリューションの開発をイメージして、何か展開を見出したいといったことを提案書に書いていました」



谷川「それで、最初はリコージャパンの販売網なども使って、ホテル業界のお客様にヒアリングしてサービスの雛形を作りたいとか、そういった相談をしていたのですが、「なんかちょっと違うな」という感じになってきまして、徐々に活動の中身が修整されていきました」

酒井「最初の時点では、リコーのイベントや展示会のコンパニオンとしてユニボを使うとか、そんなソリューションはどうか、という話もしていたんですよね。しかし、ビジネス性やマネタイズの可能性なども考えてみると、そこにまっすぐ行くことができなかった」

谷川「そうでしたね。細かな紆余曲折はたくさんあって、お客様のニーズを丹念に追っていったところ、結局、最初に想定していたようなホテル業界や施設、オフィスの受付などの顕在ニーズ以外にも、これからは「ロボットと教育」が重要になるんじゃないかという方向が見えてきたんです」

酒井「アクセラレーター期間の4カ月のうち、3カ月がヒアリングや調査で、教育にたどり着いたのは残り1カ月というところでした。そこで、ユニボで教育事業を手掛けているエデュゲートさんに参加していただくことになったんです」

鈴木「私は2003年に教育コンテンツ開発の会社を創業し、2017年からロボット事業も手掛けるようになって、2018年からはユニボを先生にした教育事業を展開しています(教育ロボットビジネス推進のため、2019年4月に株式会社エデュゲートを設立)。それが「ユニボ先生」です。ユニボが先生となって、小学生に算数を教えるというものに取り組んでいたので、ロボットを使った教育事業の実証実験をとお誘いいただいて、参画いたしました」



谷川「結果的に見ると「コサイエでのプログラミング学習の実証実験を行った」と美しく語れるものになっているのですが、エデュゲートさんにご参画いただいての初期段階も、結構辛かったというか、うまく行かなかったことが多かったんです。
私たちは、ロボットが算数を教えるというだけで面白いんじゃないか、子どもたちが喜んで勉強するようになるんじゃないかと思っていたのですが、コサイエのほうから、それだけでは子どもたちが満足しないだろう、創造性を高めるようなコンテンツにした方が良い、といった意見が出てきたんです。コサイエにはさまざまなプログラムコンテンツがあって学びの幅も広く、子どもたちの感度も高い。それで、プログラミングはどうか、というアイデアが出てきたんですよね。
ただ、アクセラレーター期間の最後、成果発表では「こういうことを企画した」という内容を発表したにとどまりました」



コサイエは海老名市のリコーフューチャーハウス内にあり、リコーが事業主として運営する登録制の小学生向けアフタースクール(学童保育)だ。多様なプログラムと、“ジモティーチャー”やコーディネーターなどさまざまな大人と出会うことで、ただその場で過ごすのではなく、体験し、学ぶ環境を作り出している。休日には年間プログラムの科学教室を開催し、下は小学校低学年から高校生までが“科学者の卵”として、実践的な科学教育を学ぶ。利用人数は、平日のアフタースクールが約40人。科学教室には100名を越える生徒・学生が参加しているという。



――その後の実証実験までの流れはどういったものだったのでしょうか。

谷川「3月にアクセラレータープログラムが終わったとき、これはそもそもどんな社会課題に取り組むものだったのだろうかと、ハッとしたんです。実証実験ありきで進めていて、肝心の目的や検証すべき仮説も明確になっていなかったと。そこで、私が新規事業開発をやっている部署の人間だったので、ちょっとプログラミング教育業界の市場調査をやってみたんです。それが4月のことでした。
すると、今ロボットを使ったプログラミング教育というのは、世の中にものすごくたくさんあった。今更、ユニボで市場参入してもダメなんじゃないかと思ったんです。

しかし、さらに掘り下げてみると、大きな課題が2つあることも分かりました。
一つは子どもによって興味の差が開きやすいということ。ロボットやレゴなどのハードに絡めたプログラミングもあるため、そういったものに強く興味を持つ子どもは学びも継続しやすいのですが、メカニックなものに関心を持てないと続きにくいそうです。もうひとつは専門の先生がいないということです。かつてダンスが必修化したときに教える先生がいないという問題が生じたように、プログラミング教育の必要性が叫ばれても、現場で教えられる先生がいないのです。
ユニボはコミュニケーションロボットで、愛嬌のある外観や仕草など男女問わず受けが良いし、先生不在の自学自習型の教育教材として成立すれば、これは勝機があるかもと考え、その仮説のもとに実証実験を計画しました。 調査、計画の時点で、アクセラレーター期間は過ぎていたわけで、いわば本番の後のフォロー期間です。せっかくアクセラレーター期間に盛り上がったのに、そのまま終了させてしまうのはもったいないと思っていたところで、幸い、ユニボを4月以降半年間レンタルすることができていたので、9月末までになんとか形にしたいとスタートしました」


浮かび上がる課題、繰り返される改良


鈴木「これは私たちにとってもありがたいお話でした。その一方で、最初はユニボを渡してプログラミングをすれば良いと考えていたのですが、始めてみたら、そんなに簡単なものではないこともわかって四苦八苦しました。結局6月の実証実験の開始から2カ月の間に3回、コンテンツを大幅にリニューアルしています」

谷川「子どもたちが予想外の反応をするんですよね。それが面白いところでもあり、大変なところでもありました」

小林「最初にユニボだけでプログラミング教育をしようとして、やはり紙の教材もあったほうが良いと判断し、ワークシートのようなものを作ったのが1回目です。こうやってプログラミングをするというインストラクションがあって、実際に体験して、ワークシートを埋めていくというスタイルで、これならプログラミングも学べるし、家庭での振り返りもできるし、勉強としてきちんと学べると自信満々だったのですが、子どもたちの興味が続かないんです。タブレットやパソコンでプログラムするのは楽しくやってくれるんですが、ワークシートができない。今となってみれば、パソコンから鉛筆に持ち替えてやるギャップが面倒だったのだろうと推測できますが、当時は何がいけなかったかまったく分かりませんでした。



そこで、次に作成したのが基本的なことだけを教えて、後は自由にやってもらうという教材でした。これもある程度までは学べるのですが、その先にあるプログラミングの面白さや、プログラミングの応用のところまで進めないという問題があることが分かりました。枠が決められてしまって、その先に乗り越えて行けないという感じです」

鈴木「そこで会議していたときに出てきたのが「ミッションをクリアしてもらう」というアイデアでした。今の子どもたちはゲームでミッションをクリアしていくという考え方に馴染みもあるし、興味を持つことが分かってきたので、その要素を教材に盛り込んだらどうか?と考えたのです。

例えばプログラムのフローチャートを学ぶ際に、ただ教えるのではなく、暗号に見立てて「解読せよ」というミッションにする。そのようなミッションを8つ設けて、最後にはそれまでのミッションで得た知識と技術を使ってプログラムを作成せよ、というミッションを与えました。ちょっと乱暴だったかもしれませんが、これが良い形にはまりました」

谷川「ミッションをひとつクリアするたびにミッションクリアを証明するシールをあげるんです。そして8つコンプリートすると「ユニボマスター」の称号を得るとした。このゲーム的な要素も、子どもたちに受けるポイントだったかもしれません。
また、実証実験をやってみて感じたのは、男女問わず、低学年の子もとても楽しんでやってくれたということで、課題に対する手応えを感じたところです」



――実証実験をやってみて、どのような意義があったのでしょうか。

小林「コンテンツとしては、8つのミッションをクリアするとプログラムの基本の3大要素(順次、分岐、反復)をカバーしていて、プログラムの基本を学ぶことができるものに仕上げることができたと思います」

鈴木「プログラムは思ったことを形にする、やりたいことを実行する、魔法のようなツールだということを体感できるものになったのではないでしょうか。この経験があれば、今後、どのようなプログラミング言語でも、スッと入っていけるでしょう。応用して自分で作ったプログラムを、ユニボストアで販売するのも面白いかもしれません。自分の作ったものが社会に出ていく体験はきっと今後のプログラミングにも役立つと思います。

エデュゲートとしては、新しい教育コンテンツの開発ができたというところです。今回初級の8つのミッションを作りましたが、今後、中級編と上級編を加え、それぞれ24ミッションくらいあると、塾などに向けたパッケージとして販売できるようになるかもしれません」


リコーとの関係と今後


――谷川さんはカタリストとして伴走された理由や、取り組みをご一緒する中で得た気付きなどがありましたか。

谷川「デジタルサービスの会社への転換を目指すリコーにとって、AIは今後重要になる、AIに関連したスタートアップとの協業は今後必要になるだろうと思っていました。2020年のTRIBUSには、多くのAI関連のエントリーがあって悩みましたが、ユニロボットだけがハードウェアを持ち込んでいた。この可愛らしいロボットをリコーに持ち込んできたことに惹かれ、ご一緒してみたいなと思って手を挙げました。
というのも、ロボットが好きだし、デジタルサービスの会社を目指すといっても、ハードウェアにサービスが絡んでいるという世界観がすごく好きなんです。ロボットの特徴を活かして、他社とは違うAIサービスで、新しい価値を提供できれば、という思いもありました



アクセラレーター期間が終わった後もフォローし続けたのは、外部の企業の人たちとチーミングして、ひとつの目標に取り組んでいくという経験がこれまでなかったからです。今までも新規事業開発を担当してきて、協業先と協議や交渉をするというのはあったけど、こういうクリエイティブなものはなかったですね。4カ月のアクセラレーター期間だけで終わらせてしまうのがもったいないと思って、これから実証実験をやればさらに盛り上がるだろうし。それで上司に相談し、社内副業制度を利用してフォローを続けました」

――リコーとの協業の可能性、今後について、お考えをお聞かせください

酒井「TRIBUSのすごいところは、伴走型で最後まで一緒に走ってくれるところですね。他の個別プログラムにも参加したことはありますが、ここまで寄り添ってくれるところはなかったです。カタリスト制度がしっかりしていて、最初から最後まで二人三脚ですすめるプログラムは他にない。おかげで良い結果を残すことができました。
私は実証実験を見守る立場で直接手を出してはいないのですが、ユニボらしさを出した素晴らしいコンテンツになったと感じています。「ユニボマスター」という称号を与えるのも、ご褒美のようで面白いしモチベーションアップにもつながる。とても魅力的な内容に仕上がったのではないでしょうか

また、これは高齢者のプログラミング教育にも使えると感じました。頭を使うことで副次的な効果も期待できるのではと思います。また、今回の実証実験で教材の作り方やロボット・プログラミング教育で独自性を出す方向性が見えてきて、可能性を感じています。ユニボ自体、今後BtoBだけでなくBtoCでも検討していきたいです」



谷川「今回、実証実験もできて、ある一定の成果は出せたとは思います。ロボットに興味のあるリコージャパンのお客様に、ユニボやこの教育コンテンツをご紹介、提案するなど、リコーグループとして絡める部分もありました。
が、課題もあると思います。それは、リコーグループ全体とウィンウィンの関係を作れればよかったということ。ユニロボット、エデュゲートには、良い成果をお持ち帰りいただけたかと思いますが、個人的には、同時にリコーが分かち合える成果を作りたかった。それが、私がTRIBUSに関わる中で今後目指していたところでもありました」

小林「『ロボット先生』は日本初、世界でも初(※)かもしれない取り組みで、これを、リコーと一緒に広げられたと思います。今回は教育分野のお話でしたが、それ以外の領域にも眼を向け始めており、介護事業者との連携の検討も始めています。また、今後のアフターコロナ、ウィズコロナの世界で求められる非接触の関係でも、ご一緒できることがあるのではと考えています」
※教科を選ばず、学習の開始から終了までをすべてロボットで行う事例(エデュゲート調べ)

鈴木「変わったところでは、岩手医科大学と、呼吸機能検査のインターフェイスとしてユニボを使う取り組みを始めています。あの「吸って、吐いて」というのが、どうもヒューマンインターフェースのほうがうまくいくらしいです。医療系でも、いろいろな可能性があると思いますね」


インタビューの後、コサイエで防災教育用のかるたを使った最後の実証実験を行った。ユニボが札を読み、かるたを取った子はユニボに見せる。子どもたち一人ひとりにIDとなる名前を与えてあり、ユニボはその名前でかるたを取った枚数をカウントし、勝敗を裁定する。
ユニボを始める際に女の子たちがサッと集まってきたのが印象的。男の子も交じるが、女の子がメインで場を仕切る格好であった。4、5人が参加し、3ラウンドプレイしてみて、問題の洗い出しなどを行った。





当日はこれまでの実証実験にも立会い、現場視点によるアドバイスによりブラッシュアップに貢献されたコサイエのコーディネーター(放課後児童支援員)の方も参加。他にもプログラミング教育を扱っている中、ユニボは子どもたちに対して「上でもなく横並びでもない“斜め上の関係”」だと話すのは、コサイエでコーディネーターをしている山崎さん(UDS株式会社所属)。ユニボの実証実験の印象を聞いた。

山崎「アフタースクールにもスクラッチを使ったプログラミング教育があって、そちらは高学年の男子が楽しんで受けているのに対し、ユニボのほうは、初心者の女の子に受けている印象がありました。コミュニケーションロボットで、落ち着いて1人でも学べる点も大きいと思います。ミッションブックの構成も、粘り強く取り組む子に向いています。プログラミングの初歩を学ぶには良いコンテンツではないでしょうか。
また、1人で遊ぶおとなしい子がユニボマスターになったり、自分で作ったプログラムに愛着を持って人にすすめるようになったりしているんですね。良い自己肯定感を得ることもできているようにも思いました。
今後、さらに精度を高めて、面白いものにしてもらえると、また新しい可能性がありそうです。個人的には、ユニボの中でアバターを育てられるような感覚で、コミュニケーションやプログラミングを通して自分好みのユニボに育成していけるようなプログラムがあるなど、そういう工夫があっても良いかもしれないと思いました」

ユニボマスターの称号を獲得し、この日のかるたにも積極的に参加してくれた2人の子に感想を聞いた。2人とも小学2年生。

Aさん「マスターになって、バッジをもらえて良かった。楽しいから最後まで続けられた。自分で作って、他のみんなを笑わせることができて、そういうのが良かったです。自分の体は使わなくて、動くのはユニボだけ。自分は脳を使うだけで、そこもすごくて面白いと感じました」

Hさん「プログラミングでロボットを思うように動かせるのが面白かった。いろいろなことが上手になれたと思います。他のプログラミング授業と違うのは、ロボットとつながっていること。学校の授業にあったら、多分面白さは1番。自分で考えて作るのがいいし、ロボットが動くのは図工にはないこと。ユニボの動きも見たことがなくて面白かったです」

実証実験の後に、改めてこのプログラムを振り返ってもらった。

谷川「何よりも、ユニロボット、エデュゲートに新たな商材を生み出せたことが成果。私も仮説実証ができて、とても充実感を感じています。
とはいえ、個人としては、やはりリコーグループとしてTRIBUSを通じてスタートアップとウィンウィンの関係を作るところまで行きたいですね。外部協業による事業化は難しいものです。しかし、エデュゲートとは商取引ベースの関係も構築できたし、ひとつひとつ積み上げていきたいです。TRIBUSにも、そのような機能を期待したいところです」

鈴木「今日の実験で、かるたの使い方、枚数の調整など、いろいろ課題や利用方法などが見えてきました。また、防災意識を根付かせるポイントも探れました。
TRIBUSでは期間を越えてなお、現場の調整や市場調査、各種資料の作成などまでやっていただきました。正直、ここまでやっていただけるとは思っていませんでした。実証実験にはよく参加しますが、場所は提供してくれても、一緒に汗をかいてくれるところはなかなかありません。リコーはある意味『全部』やってくださいました。ぜひ、今後もヘルスケアなどの分野も視野に入れて、ご一緒する方向を探りたいと思います」



TEXT BY Toshiyuki TSUCHIYA
PHOTO BY Hirotaka KAIMORI



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