「TRIBUS 2020 Investors Day」開催。 一体感増す2年目、「応援文化」で広がる社内外の輪

2021年3月17日、TRIBUS 2020の集大成となる成果発表会「TRIBUS 2020 Investors Day」が開催されました。

TRIBUSは、社内外から同時にイノベーターを募り、リコーグループのリソースを活用してイノベーションにつなげる、日本初*の統合型アクセラレータープログラムです。社内外の統合ピッチコンテストやワークショップなどの交流を通じて、リコーグループとスタートアップがお互いのリソースやノウハウ、アイデアを共有し合います。社内外の起業家がともに学び合うことで、新しい取り組みにチャレンジする文化や、イノベーションを「起こす」ものから、「起きる」ものにするエコシステムの創出を目指しています。

*株式会社ゼロワンブースター調べ

今年度のテーマは、「次の当たり前になる」。はたらく人の創造力を支える、新しい時代のビジネスアイデアを募集しました。
応募総数は243件。成果発表会ではその中からアクセラレータープログラムに参画した社内外の15チームが登壇し、事業内容や、プログラム期間での活動の成果、今後の展開について発表しました。



リアルな場でのコミュニケーションが制限されるなかでも、アクセラレータープログラムで着実に成果を積み上げてきた採択チームたち。彼らの約4ヶ月の歩みは、どのような形で実を結んだのか。当日の一部始終をお届けしていきます。


「TRIBUS 2020 Investors Day」は、株式会社リコー代表取締役 社長執行役員・CEO山下良則氏(以下、山下社長)の挨拶からスタート。「参加チームもサポーターも、リモートベースで活動するのは大変だったと思う」と参加者へ労いの言葉を述べ、「2019年からはじまったこのプログラムは、どんどんステップアップしている。今回の発表も非常に楽しみだし、その後の活躍をどう私たちが後押ししていけるか真剣に考えていきたい」と話しました。



当日の流れについて、運営事務局リーダーの森久氏から説明があったのち、この日の審査員を務めるVC(ベンチャーキャピタル)の方々の紹介へ移ります。

2020年10月に行われた統合ピッチコンテストでも審査員を務めたオムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長の井上智子氏(以下、オムロンベンチャーズ井上氏)は、「10月から各チームにどのような進展が生まれたか、楽しみにしている」とコメント。

社内審査員の株式会社リコー専務執行役員CFO兼 経営企画本部本部長松石秀隆氏(以下、リコー松石氏)も「楽しみすぎて夜中の3時に目が覚めた」と話し、期待感を示しました。



その後、いよいよ採択チームによるプレゼンテーションへ。完全オンラインという形式で、多くのサポーターやオーディエンスが画面越しに見守るなか、発表がスタートしました。

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<社内参加チーム>

XR市場をもっと魅力的に。リアルの場のコミュニケーションを革新する裸眼XRシステム
WARPE(ワープイー)/株式会社リコー/灰谷公良



株式会社リコー灰谷氏の率いるWARPE。バーチャル空間を切り取って現実世界に出現させる裸眼XRシステムを開発中です。EC(電子商取引)の台頭で影響を受ける小売や展示会等の現場を、同システムを使ったデジタルサイネージで盛り上げようと事業探索に取り組んでいます。

アクセラレーター期間には、主に技術改善とPoC(Proof of Concept:概念実証)の実施に注力。2020年3月に発表したプレスリリースは40以上のメディアに転載されたほか、社内でも展示イベントを通じて多くの支持を得られたそうです。

PoCでは、事業の展開を検証すべく社外36社と面会を実施したところ、有償案件を含む6案件が概要レベルで決定。現在、外部企業との集客プロモーションと、店舗演出の案件が具体的に進行しているそうです。灰谷氏は、「一連の結果から、サービスのサイネージとしての価値を確認できた」と語りました。

質疑応答では、株式会社リコー執行役員イノベーション本部 本部長古島正氏(以下、リコー古島氏)から既存サービスとの違いを尋ねられ、「他社よりも大きいサイズで、カラーの映像を映すことができることと、成長段階にある市場において、他社に先行して技術的な部分で権利化ができている」と語りました。株式会社ANOBAKA パートナー萩谷聡氏(以下、ANOBAKA 萩谷氏)からは「エンタメ領域のプロモーションだと、スポット利用がベースになってしまいそう。例えば、小売店では接客シーンでニーズがありそうだが、そういった展開も検討しているか」との質問が。灰谷氏は「今後は小売店の現場にもサービスを展開していきたい」と述べました。


コミュニケーションを活性化して協力しあえる社会へ。音声認識とチャットを活用した、聴覚障害者向けコミュニケーションサービス
株式会社リコー/岩田佳子

音声認識とチャットを活用した、聴覚障がい者向けサービスの開発に取り組むチーム。登壇した岩田氏は、聴覚障がい者を雇用する企業が抱える課題について、対応が現場任せになっている、ツールを導入してもアウトプットに誤りがあり誤解を生んでしまうなどの点を指摘。当事者に情報を正しく伝え、協力しあえる仕組みをつくろうと、2019年からサービスの開発を進めていると話します。

TRIBUS 2020では、企業の人事担当や学校等を対象に12件のヒアリングを実施したところ、うち4件から、効果があれば導入したいとの回答が。聴覚障がい者の支援を行う企業からは、導入促進のサポートをしたいとの声もあったそうです。

質疑応答では、オムロンベンチャーズ井上氏やリコー松石氏から「他サービスとの違いや、当事者に対するどんな工夫があるのか」「事業継続という点で、価値を提供し続けるためのバックボーンは何と考えているか」との質問が。岩田氏は「健聴者の議事録はリアルタイムである必要がないのに対して、私たちはリアルタイムでの情報保障という点に注力している。将来的にはリコーの画像処理の技術も組み合わせていきたい」と回答しました。


オンラインで「言語化できない思い」を共有する。テキストと多様なイラストで、議論を活性化するビジュアルコミュニケーションツール
piglyph/株式会社リコー/渡辺恵里



社内チームラストとなる発表はpiglyph(ピグリフ)です。オンライン上のコミュニケーションやコラボレーションに関しては、さまざまなツールが登場している現在。しかし、既存ツールでは、感情やイメージといった非言語的な情報は伝えにくい状況となっています。piglyphはそんな課題に着目し、言葉と簡単な操作で、画面上で自由にイラストの配置・共有・編集ができるツールを開発しました。

アクセラレーター期間では、オンラインでの活動に課題を感じているワークショップの現場で有用性を検証。のべ2000人からのフィードバックでは、「アイデアを直感的に共有でき、議論しやすい」という声が多数寄せられ、ワークショップファシリテーターからは「言語化が苦手な人も会議に参加しやすい」と評価されたそうです。

直近では、リコー社内の新人研修への導入を予定しているほか、社外2社との共同検証プロジェクトもスタートします。登壇した渡辺氏は、まずは企画・教育の場での実用化を目指し、今後はライブ配信などプレゼンやエンタメ領域にも展開していきたいと語りました。

質疑応答ではSpiral Innovation Partners LLP 代表パートナーの岡洋氏(以下、Spiral Innovation Partners LLP岡氏)から「絵柄がポップな印象。ターゲットはどこになるのか」との質問が。「現状は教育分野の現場に刺さっていると感じる」と渡辺氏が回答すると、岡氏は「ターゲットと利用シーンがより明確になると、一気にサービスが広がりそう。ぜひその点にも取り組んでほしい」とコメントしました。

10分間の休憩を挟んだ後は、社外チームの発表タイムへ。各チーム発表の前には、それぞれに伴走してきたカタリストたちからの応援ムービーが流れ、緊張した面持ちの発表者たちの表情も笑顔に。和やかな雰囲気で、後半戦がスタートしました。


<社外参加チーム>
学習データなしで、文章の意味を理解。多言語・曖昧検索を可能にする、企業内検索エンジン
株式会社Studio Ousia/谷口諭



株式会社Studio Ousiaは、データなしで文章の意味を理解できるAIモデル「Soseki」を開発中です。例えば、リコーの複合機マニュアル閲覧時に「Soseki」を立ち上げ、検索欄に「インクがきれた」と入力。すると、その意味から、同じキーワードを一つも含まない「トナーを交換する」という箇所を抽出し、該当ページの表示につなげてくれます。学習データの登録も不要で、多言語にも対応可能です。

TRIBUS 2020では、「Soseki」を使った企業内検索のアップデートに注力。ITヘルプデスクでの問い合わせ対応と営業資料(テンプレート)の検索、作成という2つのシーンでの有用性を確認できたそう。また、既存検索システムで使用されているオープンソース検索エンジンの代わりに、「Soseki」を実装する専用アダプターも開発し、実装作業を進めています。

一連の活動によって、プロダクトのメリットが明確化したと語る谷口氏。今後は実施途中のPoCの進行と、リコーグループと提携した有償提供を目指しながら、新たなパートナーを開拓したいと締めくくりました。

Spiral Innovation Partners LLP岡氏からは「今後は標準化して社外に販売するフェーズになると思うが、課題感やどんなパートナーを開拓していくのかについて伺いたい」との質問が。谷口氏は、「規模の大きな企業になると検索対象となる資料が膨大になるが、現段階では我々のモデルがそれに耐えうるかどうかが分かっていない。また、中小企業向けにパッケージで販売するのか、大企業向けにカスタマイズを含めて提供するのかでは、アプローチが全く異なることも判明した。どちらで進めていくかは、具体的な検討が必要」と回答しました。


リサーチの困りごとを速やかに解決。事業ドライブ&個の活躍を加速させるビジネス調査コミュニティ
株式会社グローバル・カルテット/城みのり



株式会社グローバル・カルテットが取り組むのは、ビジネスにおける調査プロセスの最適化。企業活動においてはさまざまなリサーチが必要となりますが、日々の業務に取り組みながら、一からリサーチを考えるのは大変です。「Global Quatret」は、そうしたビジネスにかかわる人たちが、掲示板上でプロに相談ができるコミュニティ。登録しているコンサルタントたちに、「何から始めればいいかわからない」という初歩的な段階からアドバイスを受けることができ、効率的に業務を進めることができます。

TRIBUS 2020で取り組んだのは、決裁者へのヒアリング、リコーグループ内の実証実験、β版の開発の3点。まずは既存のSNSやツールを使い、コミュニティで“相談”することの有用性をリコー社内で検証しました。カタリストを中心に、実際にコンサルタントとやり取りをしてもらったところ、もっとも早い事例は43分で解決。そのスピード感や、相談するハードルの低さに対して高い評価が得られました。β版のプロトタイプも完成し、来季のTRIBUSで活用されることも決定しています。

質疑応答では、リコー古島氏から「類似のサービスとはどのように差別化するのか」と質問が。城氏は「我々が注力しているのは、調査に対するハードルを下げること。既にリサーチの全貌が見えている場合は別のサービスを活用してもらうのがいいと考えている。スタートの部分にたどり着けない人にこそ、サービスを活用してもらいたい」と強調しました。


営業の育成を効率的に。AIを活用した営業力向上ツール
コグニティ株式会社/堀尾桂祐



コグニティ株式会社は、企業の営業教育に特化したサービスを提供しています。一人前になるまで5年かかるといわれている営業。ほかにも、指導の属人化、トークのブラックボックス化など、営業の育成や改善にはさまざまな課題があります。同社ではAIを使って営業トークを分析するツールを提供しており、これによって半年でメンバーの営業スキルを社内平均までアップさせることができるそう。上場企業を中心に、すでに200社で導入されています。

TRIBUS 2020では、リコーとの協業を目指し、ツールを活用した社内の営業スキルの向上に注力。営業メンバーのトーク分析では、成績が優秀な人ほど相手よりも会話量や質問数が多く、具体的な課題を丁寧にヒアリングする質問内容が多かったそうで、参加者からは「客観的な分析結果から、新たに気づきがあった」との声があったとか。登壇した堀尾氏は、今後はリコー内での活用シーンを増やしながら、リコーの取引企業への展開を目指していきたいと語りました。

リコー松石氏は、コロナ禍によって多くの企業がインサイドセールス化を進めている中ではぴったりのテーマだと述べつつ、分析レポートが実際どう生かされているのかと質問。堀尾氏は「成績の良い人と自分のデータを比較することで、客観的に足りていないところを理解できる。さらに、指導する側もレポート結果から具体的なアドバイスをすることができ、指導力アップにも貢献できている」と回答しました。


組織間でデータを暗号化したまま分析。機密性の高い医療データへの活用を目指す秘密計算エンジン
株式会社Acompany



株式会社Acompanyは、プライバシー情報や機密情報をセキュアに分析する手法「秘密計算」を扱うテクノロジー・カンパニーです。現在、複数の組織間でデータを暗号化したまま分析できる秘密計算エンジン「QuickMPC」を提供しています。

TRIBUS 2020を通じてヒアリングを行った結果、同社は地域包括ケアシステムでの医療データ活用に注目。日本の医療では、コロナ禍以前より病院経営の赤字が問題となっており、同社は病院間のデータを活用することによって、経営改善を図れると考えました。

医療関係者へのヒアリングを通じ、コストや安全性の面でいくつかの課題が上がりましたが、同社はリコーの提供する「地域包括ケアシステム」と「QuickMPC」の連携によって解決すると提案。医療データは機密性が高く、分析する環境の安全性が必須となるため、そこに「QuickMPC」の活用シーンがあります。リコーのシステムとの連携により、より大きな地域単位でのデータ分析が可能になり、さらには行政施策への反映の可能性も見込めるそう。今後は引き続きヒアリングを進めていくとのことです。

発表を受けて、株式会社リコーの古島氏より「データ漏洩などのトラブルが起きた場合、会社としてどこまで保証するのか」との質問がありました。それに対して、「前提として、元の秘密情報を断片化しサーバーで保存する仕組みになっている。サーバーから情報が漏洩しても、その情報が何の情報であるかはわからない設計になっている」との回答がありました。


中小企業のDXに貢献。優秀な副業IT人材と企業をマッチングする人材サービス
株式会社シューマツワーカー/松村幸弥



「副業」の勢いが高まる昨今。株式会社シューマツワーカーは、優秀な副業IT人材に月40〜50時間業務を依頼できるサービスを提供しています。外部のプロの知見を社内に取り入れられる、転職市場にいない優秀な人材を確保できるということで、現在登録者3万人、累計取引企業数600社以上となっています。

TRIBUS 2020には、顧客との信頼を築いてきたリコーと、中小企業のDXに貢献する座組みをつくりたいとの思いで応募したと語る代表の松村氏。プログラム期間では、リコー内の営業メンバーとの意見交換と、DX・IT人材リソースに課題を抱える企業4社との意見交換を行いました。

そこで明らかになった課題感は2つ。営業支援システムやRPAを初期開発するSE部のリソース不足と、EC売上アップやWEBマーケ課題、デザイナー不足に対する手段がないということです。前者に対しては、現在リコー社内の部署と、副業エンジニアリソースを柔軟に提供できるスキームを構築中。後者の課題についても、リコー社内の部署と議論を進めており、システム開発やWEB関連の役務サービス事業者とのマッチングに、同サービスを組み込むか検討をすすめています。

質疑応答では、リコー古島氏から「企業に副業人材をリピートしてもらうために、どのような手を打っているのか」と質問が。松村氏は「各人材のパフォーマンスについて、評価データを蓄積している。そこで評価の高い優秀な方をご紹介できるよう、現在まさに社内のオペレーションを構築しているところ」と語りました。


働く人の創造力を支えるためロボットへの業務代行を促す
ユニロボット株式会社/泰松遼



社外チーム後半のトップバッターを務めたのは、ユニロボット株式会社。コミュニケーションロボットによる業務代替を通じて、働く人がより創造的な業務に集中できる環境づくりを支援しています。実際に開発中の次世代型コミュニケーションロボット「Unibo」は、人工知能を搭載し、ホテルの受付やオフィスの点呼、医療支援、教育支援など、さまざまな用途・場所での活躍が期待されています。

アクセラレーター期間中には、リコー社内の12部署や想定クライアント(ホテルなど)対し、Uniboの市場分野をヒアリング。まちづくりや教育、またホスピタリティ分野における活用が見込めるとの回答を得たそう。また、リコーで学童保育施設「コサイエ」を運営する部門グループや、イベントの効率化や満足度向上を行う部門グループでは、現在実証実験を検討中。イベントの説明員としてUniboを導入することで、人材採用や育成にかかるコストを削減できるとの声が聞かれたといいます。

今後の取り組みとしては、日本ではまだまだAIに代替されている業務の割合が少ないことをあげ、Uniboによる業務代替を推し進めることで、「“はたらく”に歓びを」を実現したいと締めくくりました。

質疑応答では、株式会社iSGSインベストメントワークス取締役/代表パートナー佐藤真希子氏(以下、iSGSインベストメントワークス佐藤氏)から、「イベントの人員確保にかかる採用・教育コストと、Uniboを採用・教育するコストにはどれくらいの差があるか」という質問が。これに対し泰松氏は、個別指導塾での検証実績をあげ、「約2倍程度のコスト差が見込める」と回答。またリコー松石氏から質問のあった差別化ポイントについては、「人間の感情を解析する研究をしており、個人の趣味嗜好を学習してそれに沿った会話ができる」と答えました。


日々の意思決定に“gusto”(=喜び)を
株式会社data gusto/パー麻緒



続いての発表は、AIによるデータ分析ツールの開発に取り組む株式会社datagusto。創業して1年、TRIBUS参加チームの中で最年少の企業です。パー氏は、既存のデータ分析ツールの多くが専門家向けで、現場の人が簡単に使える形になっていない点を指摘。datagustoでは、データ分析にかかる時間や工数で悩んでいる営業やマーケティング部門をターゲットに、「料理におけるレシピ」のようなデータ分析テンプレートを提供しています。

TRIBUS 2020の期間中に、リコーのインサイドセールスやマーケティング部門でのトライアル・ヒアリングを実施したところ、「これまでは分析の際に自分でデータを揃えるところから始めないといけなかったが、datagustoはテンプレートを選ぶだけでさくっと課題解決できた」との評価を受けたそう。またトライアルの中で、データ分析だけでなく、施策の打ち手を提供してほしいという新たなニーズがつかめたと話します。

現在開発中の製品版では、興味のある分析テンプレートを選ぶだけで営業支援システムなどと自動連携し、AIによるデータ分析を通じて成約率をあげるための施策の提案にも答えてくれるそう。現在はベータ版ユーザーを募集中で、TRIBUSプログラム後には、リコーでの本格導入や企画部門との連携を予定していると話しました。

質疑応答では、ANOBAKA 萩谷氏から、「分析テンプレートはどのように数を増やしていくのか」との質問が。パー氏は、「最初はdatagusto内で作成し、中長期的にはパートナーが作成したものを共有化していきたい」と語りました。リコー松石氏は、「リコーは営業ではよく知られた会社。売れるモデルができれば日本中に広がると思うので、有効活用してほしい」と今後の期待感を述べました。


XRが当たり前の世界をつくる
株式会社Synamon/武井勇樹



続いて13チーム目の発表になるのは、ビジネス向けのVR・ARサービスを提供する株式会社Synamon。バーチャル空間上でビジネス活動を実現させる「NEUTRANS」を開発しています。すでにユースケースとして、双方向の密なコミュニケーションが求められる会議やセミナー、展示会、研修などでの活用が進んでおり、高いCG技術や複数人同時接続、快適な操作性などの特徴が導入企業から評価されているそう。

TRIBUS 2020では、リコーや想定クライアントに対してのヒアリングはもちろん、リコーの持つ事業分野の広さを活用し、幅広くXRの持つ可能性を検討。その結果、オフィス・不動産・教育の3分野におけるXR活用のニーズが見えてきたと話します。

オフィス分野では、リコーが海老名に持つ「RICOH Collaboration Hub」を、リアルな3DCGでVR空間に再現。遠隔にいながらも「会っている」ような感覚で、臨場感あるコミュニケーションを体験できようになったそう。不動産分野では、リコーが開発した360度カメラ「RICOH THETA」と連携し、内見業務を支援するサービスを検討。教育分野では、オープンキャンパスなどのバーチャル化サービスを教育機関へ提案し、「ブラッシュアップをしている最中」と話しました。

Spiral Innovation Partners LLPの岡氏からは、「バーチャルオフィスやVR空間が社会実装されていくイメージがまだわいていない。どのようなステップで導入拡大を進めるか」との質問が。武井氏は、「一般的なオフィスや会議をすべてバーチャルにするにはまだまだステップがある。各業界にどのような課題があるのかをさらに深掘りしたうえで進めたい」と述べました。「コアとなる技術はあるか」という質問に対しては、「ビジネス向けサービスのため、ゲーム好きだけでなく、誰もが手軽に使える操作感が特徴。他社にはマネのできないUI・UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)を極めていきたい」と述べました。


「誰が・何を知っているか」を集約・共有する人事AIアシスタント
KBE株式会社/白壁和彦



続いての発表は、東工大発のHR Techベンチャー、KBE株式会社。「組織内で誰が・何をしているか」を把握できる人事管理システム「researcHR」を開発しています。

白壁氏は、旧来型の人事システムにおけるデータ更新業務が、負荷の高い状況になっていると指摘。researcHRは「普段使用しているコラボレーションツールを使用して運用でき、ログインする手間がはぶけるのはもちろん、働き方に関するアンケート回答の公開や締め切り催促などもすべてチャット上で可能」と話します。データを集めてレポートする機能もあり、「現場メンバーの日々の情報共有に役立ちつつ、自然とデータが蓄積・共有されるサイクルをつくるプロダクト」になっているそう。

今回のTRIBUS 2020プログラムでは、リコー社内の3部署でトライアル運用を実施。「メンバー同士、チャットで会話が生まれており効果を感じる」「マネジメントへも活用できそう」などの前向きな意見が多数聞かれたといいます。リコーが社内で活用している人事システムやタスク管理アプリとの連携に向けても協議を進めており、タスク管理アプリについてはTRIBUSプログラム終了後も商談時のニーズヒアリングをリコーと共同で実施、販売を目指しているとのこと。

質疑応答ではリコー古島氏から、「誰が活用するのか・活用シーンを教えてほしい」との質問が。白壁氏は、「マネージャーの方の日々のマネジメント支援や、人事の方のタレントマネジメント支援、またデータの活用という側面では、現場のメンバーの方にも使っていただける」と回答しました。


顧問助産師という概念が次の当たり前になる
株式会社With Midwife/岸畑聖月



TRIBUS 2020 Investors Dayのトリを務めたのは、代表の岸畑氏率いる株式会社With Midwife。24時間365日顧問助産師に相談できるオンライン相談や、妊娠してから復職までを継続的に支援する育休サポートプログラム、健康やキャリアに関する社員研修などを通じ、働く人を公私ともに支えるサービスを提供しています。

TRIBUS 2020では、サービスの進化の可能性を探るため、リコーグループ社員317名への実証実験・ヒアリングを実施。生活の悩み事に関するアンケート調査では、意外にも男性は健康ではなく子育てやパートナーについて、女性は自身の健康や子育てのほかに、メンタルヘルスについて相談したいという結果が出たそう。実証実験では、サービス利用者の約3割が男性で、「仕事への好影響やメリットを感じている」「モチベーションがあがった」「プライベートの悩みを相談できて助かる」などの評価を受けたと話します。

今後は集まったデータや知見をいかして、顧問助産師の育成や企業の組織開発、また一般向けにもサービスを拡大予定。「5年後までに1000社への導入」を目指して活動を進めるそうです。また、「TRIBUSでの学びを経て、一人でも多くの方にこのサービスを届けたいという思いが強まった」と話し、性別にかかわらずはたらくすべての人を支える新ブランド「The Care」としてリブランドしたことを発表しました。

質疑応答では、iSGSインベストメントワークス佐藤氏から、「子育てや健康に関する相談なら医師も対応できるが、なぜ助産師なのか」と質問が。岸畑氏は「助産師は全国に7万人いるが、病院しか就職先がなく、実際に免許を使って働かれている方は約半数の3万5千人程度。潜在助産師のポテンシャルを生かしたい」と回答。リコー松石氏は、「男性も子育ての壁にぶつかっているが、どこに相談すればいいかわからない人が多い。社会課題解決にもつながる大変重要なテーマ」とエールを送りました。


<基調講演>
「エクスポネンシャル思考による新価値創造」
エクスポネンシャル・ジャパン株式会社代表取締役/齋藤和紀氏



各チームのプレゼン後は、エクスポネンシャル・ジャパン株式会社代表取締役の齋藤和紀氏より、「エクスポネンシャル思考による新価値創造」と題した基調講演が行われました。

成長期にあるベンチャー支援を手がけてきた齋藤氏は、AIやスーパーコンピューターなどの例をあげ、企業や産業そのものの成長スピードが「エクスポネンシャル(指数関数的・2・4・16…と倍々になるスピード)になってきている」と話します。

「人間の直線的な30歩は30mしか進めませんが、仮にエクスポネンシャルなステップを刻んだとすると、30歩で地球を25周するスピードになります。AIというのは、まさにこのスピード。AIがトップ棋士に勝利した話はよく知られていますが、今そのコンピュータ囲碁プログラムは人間から学んでおらず、AI同士で光のスピードで精度を高め合うようなレベルに到達しています」(齋藤氏)

ビジネスにおいても「DX」というワードを見聞きしない日はなくなり、製造工程の3Dプリンター化やキャッシュレス化など、かつてはものだったものが、今ではスマートフォンのアプリのひとつになっていると指摘。



「世界のデータ量や通信量は、エクスポネンシャル的なスピードで増え続けています。こうした動きは今後さらに加速し、AIやバーチャルリアリティ、ドローンなどの産業革命が雨あられのように起きる時代がやってきます。浴槽の底に水がたまるまでにかかる時間が長いのに対して、一旦たまってくると早いのと同じ。エクスポネンシャルのカーブが予想をこえて増えていくポイントが訪れるのです」(齋藤氏)

齋藤氏はDXについて「こうした加速するデジタルディスラプションの波に対し、自律的に最適化し続けるモデルへ転換すること」と定義したうえで、「いままでとこれからは、連続しない新しい時代です。人間の存在自体の変化への対応が求められる時代になりますが、大事なことは、成し遂げたいことを今一度考え、強い想いを声に出すこと。未来の可能性はすでに我々の手の中にあります」と参加者たちにエールを送りました。


基調講演の後は、表彰式へと移ります。まずは、リコー松石氏から、プログラムへ社内起業家となったメンバーやとカタリストを担当したメンバーを送り出した管理職たちへ「ChangeDriver賞」が送られました。

その後リコー古島氏からは、イベントを聴講していたリコーグループ社員からの投票で決まるオーディエンス賞が発表されました。今年はオンラインでの開催となりましたが、全国から864名ものリコーグループ社員が視聴者として参加しました。オーディエンス賞の3つの視点(「社会的価値がある」「新規性がある」「共感した」)のそれぞれに選出されたチームは以下の通り。

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【オーディエンス賞】

[社会的価値がある]
株式会社リコー(代表者:岩田佳子)
 「聴覚障がい者向けコミュニケーションサービス」

[新規性がある] [共感した]
株式会社リコー(代表者:灰谷公良)
 「現実空間に全方位映像を映し出せる投影装置(裸眼XRシステム)を開発」

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また2020年度は、リコーグループとは異なるリソースを持つ企業との共創をさらに加速させるとして、これまでにTRIBUSと交流のあった企業から送られる「TRIBUS企業賞」、さらに、社内審査員および社外投資家の審査により、来年度からの自由裁量権を持った活動が認められる「TRIBUS社内起業賞」の2つの賞が新設されました。

「TRIBUS企業賞」では、富士通株式会社の「富士通アクセラレーター」とKDDI株式会社の「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の担当者が特に注目したスタートアップ企業3社が選ばれ、それぞれの企業との面談の機会を獲得しました。

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【TRIBUS企業賞】

[富士通アクセラレーター]
KBE株式会社(代表者:白壁 和彦)
 「人事AIアシスタントresearcHR(リサーチャー)」

株式会社Studio Ousia(代表:渡邉 安弘)
 「最新の自然言語処理技術を活用した、多言語・曖昧検索を可能にする企業内検索エンジン」

[KDDI ∞ Labo]

株式会社datagusto(代表者:パー 麻緒)
 「自動調理器の手軽さで、材料(データ)から自社専用の料理(意思決定支援AI)を作成し、利用できるSaaS型セルフAIサービス」

社内審査員および社外投資家の厳正な審査により選ばれる「TRIBUS社内起業賞」は、リコー山下氏から発表されました。発表後、中には驚きと喜びで涙を流す発表者も。社内チームのうち、来年度以降の自由裁量権をもった事業開発に取り組める3チームは以下の通り。

【TRIBUS社内起業賞】

株式会社リコー(代表者:岩田佳子)
 「聴覚障がい者向けコミュニケーションサービス」

株式会社リコー(代表者:灰谷公良)
 「現実空間に全方位映像を映し出せる投影装置(裸眼XRシステム)を開発」

株式会社リコー(代表者:渡辺恵里)
 「思い描いているものをリアルタイムに視覚化するビジュアルコミュニケーションシステムの開発」

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表彰の後は、社内外の講評陣によるフィードバックが行われました。株式会社Spiral Innovation Partners LLP の岡氏は「リコーグループの技術やアセットの良さがひしひしと伝わってきた。社内起業家はストーリーや戦略のブラッシュアップ、社外起業家はリコーとビジネスモデルやリソース供給についていかに詰めていけるかが重要になる」とコメント。リコーの松石氏は、来年度以降も事業開発を進めるチームにエールを送りつつ、「次のステップはこれまでとは全く違う。権限や権利もあれば、一方で厳しい判断を求められる。その覚悟をもって進んでほしい」と述べました。



会の最後に、TRIBUS事務局の大越氏から、来年度も「2つで1つのTRIBUS」として、社内外統合型のアクセラレータープログラムを継続することが発表されました。また3年目となる2021年度のテーマは、「不可逆な世界でこれからの選択肢をつくる」に決定。大越氏はテーマの背景について、「コロナの影響で社会の変化は劇的に加速しています。新たな秩序が形成されようとする中で、どれだけ多様な選択肢を作っていけるかが、今まさに試されているところ。意思未来という言葉がありますが、予測が難しい時代なら、ほしい未来をつくればいい。リコーはこれからの選択肢をつくることで、これからの可能性を実現したい」と語り、成果発表会を締めくくりました。




2年目となった2020年度のInvestors Day(成果発表会)では、総勢260名となった社員サポーターズや、リコーとスタートアップをつなぐカタリストが、社内外のチャレンジャーを全力で支え、それをリコーグループ全体が一丸となって応援する様子が見て取れました。山下社長も、チャレンジャーやカタリスト、サポーターズについて、「会社全体のカルチャー変える存在になりつつある」と評しています。

日本初の統合アクセラレータープログラムとして、2021年度には3年目を迎えるTRIBUS。来年度テーマ「不可逆な世界でこれからの選択肢をつくる」からは、「一歩も後に引かない」という強い意志と、「これからの時代を担うイノベーションを創出する」覚悟が感じられます。これまでの2年間で培ってきた社内外の関係値、またそこから生まれた応援文化は、確実に新たなチャレンジャーを増やし、「これからの選択肢」の創出へとつながっていくのではないでしょうか。




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